ドライブ周りのトラブル2 ―ある意味消耗品―
寒さが身に凍みる季節になってきました。20世紀も残すところあと僅かですね。筆者も愛艇の整備をしつつ来るべき新世紀のボートライフを楽しみにしています。
さて今月は先月に引き続きドライブのギアケース本体のトラブルについてお届けします。
クラッチケーブルの折損
先月号でお話したドライブ内部のクラッチはワイヤーでコントロールされています。このワイヤーは十分な強度があり、通常の操作に対して切れることはまずないのですが、無理な力が掛かったり、錆びさせてしまったりすると時々切れたという話を聞きます。筆者が経験したワイヤーの折損は次のようなものでした。
お気に入りの泊地でアンカーを落とそうと静かに進んでいるときに突然エンスしたのです。「あれれ?」と思って再始動するために(セーフティースイッチが入っているのでニュートラル以外ではスターターが回らないので)ニュートラルに戻そうとしたのですが戻らないのです。更に「あれれ?」と思って力を込めて戻そうとしたらいきなりスカッと手応えがなくなったのです。「まずい!」っと冷や汗を流したのは容易に想像できるでしょう。そうです。無理をしたためケーブルを切ってしまったのです。この時は自船のアンカーロープをスクリューに巻き込んでしまいエンストというまことに締まらない事が原因だったのですが、ロープのテンションでギアが固く食ってしまってクラッチが抜けなかったのです。ロープを外してやれば何ということもなかったはずなのに、絡網に気づかなかったばかりに傷を深くしてしまいました。幸いドライブに行っているケーブルのエンジン側で切れてくれたので、ロッドをそのまま押し込んで針金で縛って帰港する事ができましたが、ドライブの内部の方で切れていたらお手上げでした。単にツイていたと言うべきでしょうか?深く反省したのは言うまでもありません。何事も無理な力をかけるのは禁物です。
またこちらは錆でのトラブルの例。別に無理をしたわけでもないのにいきなりクラッチの手応えがなくなってしまった艇がありました。オーバーホールしてみるとドライブ内部のケーブルが真っ赤に錆びて腐食して切れていました。しかも錆びていたのはケーブルだけでなくユニバーサルジョイントをはじめあちこち真っ赤なのです。先に漏水・・・の話をしましたが、漏れた水が掛かって錆びを呼んでしまったのです。こうなってしまうとケーブルの交換だけでなく大規模なオーバーホールが必要になってしまいますからくれぐれも漏水には注意してくださいね。
オイル漏れ
次はドライブに付きもののオイル漏れの話です。先ほどドライブ本体はギアとベアリングの塊だと書きましたが、これらのギアを保護・潤滑するためにドライブ本体の中にはギアルーブというオイルが入れられています。ちょうど自動車で言うデフオイルのようなものです。
ギアの守護人オイルが抜けてしまったりすると問題がある事は容易に想像がつくと思うのですが、ボートの場合はなかなかどうして結構お目にかかるのです。いくつか例をご紹介しましょう。
ある知人の進水式の日のことです。しっかり整備され綺麗になった艇は皆に見送られて軽やかに走っていきました。ところがその日の夕方なんと片肺でやっとの思いで帰港してくるではないですか。何でも片舷が空回りしてしまって推力が出ないとの事。最初はスクリューが滑ったのかと思い上架してみると、スクリューのスリップではなくて、なんだかギアがなめたか様な手ごたえなのです。「そんな事はないだろうにおかしなこともあるものだ・・・」と思いながら、とりあえずドライブオイルの点検をしてみました。これはドライブオイルの性状を見ればそのトラブルの見当が付くからなんです。ギアが欠けた場合等もマグネットになっているプラグに金属屑が付いてすぐに分かります。さて件の艇のオイルドレンプラグを外そうとしたら・・・なんと手応えなく手で回せるほど緩んでいるではないですか!しかも外してみると・・・オイルがほんの僅かしか入っていません。そうです。オイル交換をしたときの締め付けが甘く、走っている間に振動で緩んでしまい負圧で吸い出されてしまったのです。きっと走っている間次第に少なくなるオイルの中でギアは泣き続けていたんでしょうが、進水式に喜ぶ耳には聞こえませんでした。無潤滑での酷使に耐えられなくなったベアリングは焼きつき、無残にもドライブシャフトがポッキリ折れてしまいました。この時はギアやベアリングはいうに及ばず、ドライブのハウジング自身も削れて駄目になってしまいましたので、ほとんど全とっかえと言ってもよいほどの大修理になりました。もちろん100万以上の費用がかかったのはいうまでもありません。
このドライブオイルのオイル量に関しては、リザーバータンクのないものはディップスティックを抜いてみないと判り様がありませんから怖いですね。リザーバータンクがあればワーニングが鳴って気づきますし、ワーニングがなくても目視チェックができますから気が付くんですが・・・。めったな事では漏れたりしないんですが、万一漏れてしまったりするとその結果は破滅的なものとなりますから注意しましょうね。
プロペラシャフトも要注意
もうひとつオイルが漏れやすい部分がこのプロペラシャフトです。プロペラシャフトがドライブ外部に貫通している部分は回転していますから当然フリクションがある構造をしています。このためプロペラシャフトの根元にはオイルシールがあり、このオイルシール1つでドライブ内部のオイルを堰止めているのです。その物自体は極薄いゴムのパーツです。当然繊細な構造をしていますから強い力が掛かったりすると破損してしまうことがあります。それでいて破損するとオイルに水が混じって乳化してしまいドライブのギアが錆付いたり、ひどい場合は焼きついたりと大損害となります。僅かゴムのシールひとつですが影響はなかなかに大きいのです。
陸置保管しているある知人の話です。週末を控えてワクワクしながらマリーナに下架を頼んでおいたときのこと。夕方マリーナからドライブからオイルが漏れているのを発見したという電話が掛かってきました。友人は「あ?やっぱり?」と思ったそうです。実は前回マリーナ前の桟橋に着けるときに浮遊物の「むしろ」をドライブに巻き込んでしまいすさまじい振動を感じたとの事。その時は「誰
じゃいむしろ何ぞ捨てた奴は!」と思いながらも取り去って、上架してからドライブオイルを点検して水分混入が無い事だけは確認していたそうですが、やはりオイルシールに無理が掛かって漏れてしまったようですね。でもこの友人は運が良い方です。陸置保管で下がコンクリートだったため、オイルの漏れた跡がすぐ分かったので大事にいたる前に気づいたのですから。これが係留保管だったとすると、最悪気づかぬまま出港し沖合いで焼きつき・・・なんていう事態も考えられますからね。車でもよくオイルパンやデフからのオイル漏れをチェックするのに車を停めておいた地面を見たりするのとおんなじですね。筆者も一度何が原因かは分からなかったのですがプロペラシャフトからのオイル漏れを経験していて、同じ様にコンクリートにオイルが滴って気づきました。
釣り糸にもご用心
同じくオイル漏れの話でもう一つ。ボートで釣りをなさっている方でしたら自分でスクリューに絡めてしまった経験をお持ちの方も多いかと思います。ラインを切られたりせっかく掛かった獲物を取り逃がしたりなどは諦めもつきますが、ドライブを壊してしまう事もあると聞けばあまり良い気はしないでしょう。まあ細い釣り糸程度でしたら余程のことがない限り、スクリューやドライブ本体などにダメージはありませんが、プロペラシャフトに巻きついてしまったらちょっと話は違います。釣り糸がこの部分にきつく挟まると前述のオイルシールが切れ、軸からオイルが漏れ出てしまうことがあるんです。
この釣り糸が絡まっていないかをチェックするには上架してスクリューを外してみるしか方法がありません。ですから陸置保管をしていらっしゃる方はグリスアップかたがた時々プロペラシャフトに釣り糸が絡まっていないかチェックしましょう。まあ陸置していれば、前に述べたように万一のオイル漏れの際も発見が容易ですので幾分気は楽です。しかし係留保管なさっている方はおいそれとチェックするというわけにはいきませんので、釣り糸に関しては特に慎重に注意してください。少なくとも自分や同乗者がスクリューを引っ掛けてしまわないようにしましょうね。また河川や運河を走る機会が多い人は岸辺や橋の上からの釣り人のラインに目を光らせましょう。
ワンポイントアドバイス
トリムタブってご存知ですか?トリムタブといってもトランサム両舷に付いているフラップではありません。アンチベンチレーションプレートの後ろにある流線型をしたジンクアノードのことです。あれ小さな舵の形をしているでしょ?あんな格好をしているのは伊達ではありません。このトリムタブの本来の役割はドライブの電蝕を防ぐためのものですが、副次的に取り付け角度を調整することによって直進時のステアリングトルクを軽減する事ができるのです。シングルスクリューの場合水の流れが左右アンバランスになりますからどうしてもボートは頭を振る癖があります。そのため直進するためには当て舵をしなくてはなりませんよね?もちろん手を離すことも出来ず、もし話してしまうとスルスルっと勝手にハンドルが切れて急カーブし危険な状態にもなりかねません。筆者も一度これで失敗したことがあります。そんな時このトリムタブの角度を調整してやると、上手くバランスが取れて当て舵も要らず手を放しても大丈夫になります。もちろんずっと手放し運転・・・なんて言うのはお勧めできませんがちょっとジュースを飲んだりするのに便利ですよね。ステアリングトルクにお悩みの方は是非一度調整してみてください。
ドライブの尻尾の先
ドライブの一番下の先端は斜めに切り落とされた尻尾のような構造をしています。これをスケグというのですが、側面積を増やし方向安定性を向上させるとともに、大切なスクリューをガードする役割を担っています。ドライブの最も下にあるため浅瀬などに着底したとき真っ先に犠牲になるのもこの部分です。よく泥を掻いてスクリューやスケグをピカピカにしてしまう人がいますが、もう少しひどく乗せるとよくこのスケグがポッキリ折れてしまいます。多少の欠けぐらいでしたらあまり影響はありませんが、変に曲がったり大きく欠けてしまった時は、フラフラとして真っ直ぐに走らなくなってしまったりガードの役目をしなくなってしまったりします。こうなってしまうと補修が必要ですが鋳物なのでなかなか大変なようです。スケグガードなんていう製品が売っているところをみると結構多いと思うのですが皆さんは大丈夫でしょうか?ドライブの先の先の尻尾ですがちゃんとした役割がありますので大切にしてやってください。
さらにひどくぶつけてしまったときはスケグだけではなくロアケース本体まで割って、オイルが漏れてしまったりすることもありますがこれなどはまあ論外ということで。
もうひとつの大事な役目
さてドライブにはもうひとつ大切な役目があります。それは冷却水を取り入れるというものです。ディーゼル船内外機になると船底から直接シーコックを設けて取り込んでいることもありますが、ガソリン艇ではほとんどドライブ下部のインテークから取り込んでいます。またドライブの種類によっても違いますがかなりのものは冷却水ポンプがドライブ内部にあります。ドライブにはこういった機能もあるということを忘れずに。航行中はビニールなどのゴミで取り入れ口をふさいだり、浅瀬で砂を吸い込んだりしないようによく注意しましょう。また冷却水ポンプのインペラはドライ運転には極端に弱いので、陸上では決してエンジンを回してはいけません。インペラを壊してオーバーヒートに泣くことになります。この冷却水の件についてはまた改めてご紹介しますね。
係留保管と陸置保管による
トラブルの違い
最後に保管方法による影響についてみてみましょう。ボートオーナーの好みにより、陸置保管、係留保管といろいろなボートライフのスタイルがあります。どちらのスタイルにもメリットデメリットがありますが、ドライブはそういった環境に大いに影響を受ける部分です。特に係留保管の場合は電蝕やフジツボ等の害が気になるところですが、なかなかどうして陸置でもいろいろあります。ここでは保管方法の違いによる代表的なトラブルを見てみましょう。
まず係留保管だと一番心配なのはやはりフジツボの付着でしょう。船底塗料を塗って半年も経つと船底一面に付着して走りも遅くなります。船底塗料を塗るために上架したの見たことがある方ならお分かりかと思いますが、フジツボは容赦なくドライブにも付着します。ひどくなると冷却水取り入れ口を塞いでしまったり、ベローズの部分にも入り込んで上げ下げをした時にベローズを切ってしまったりします。特に係留中チルトを上げっぱなしにしておくと、チルトアクチュエーターにも着いてシールを切ってしまったりします。ですから係留中はドライブをいっぱいに下げておくようにしてくださいね。またドライブ専用の防汚塗料もありますからいろいろと保管場所に合う塗料を試してみてください。しかしそれでもやはり万能というわけにはいきません。レジャーボートに使われる船底塗料は自己研磨型が多いので、やはり係留保管している方はまめに走るのが一番良いでしょう。
また気になる電蝕ですが、この電蝕とは異なる種類の金属が海水等の電解液に浸されたときに電流が発生して、一方がボロボロに腐食してしまう現象です。これはなかなか奥が深いテーマなのでまた次回改めてお届けしますね。いずれにせよ係留保管しているとドライブの消耗が激しいのは事実です。ある程度消耗するものと割り切っておけたらと思います。
一方陸置保管しているからと言って安心してはいけません。確かに陸置保管していれば電蝕の心配もありませんしフジツボの害等は心配ありません。しかしだからといって安心するのは早いです。陸置保管では係留保管とは別なトラブルがあるのです。その中でも代表格は塩噛みと乾燥でしょうか?まず塩噛みについて見てみましょう。この塩噛みというのはボルトのネジ部やピポッド等の摺動部に塩が固着して動かなくなってしまう現象です。海水から上げた後水分が蒸発して塩分が凝集してしまうのが原因です。各部に使われているボルトやナットが動かなくなってしまったり、回転部分が重くなってしまったりします。以前プロペラトラブルの時に述べたプロペラシャフトへの固着と同じ理由です。例えば何かの部品を交換し様としてもどうにも分解できずに、結局その周りをずたずたにして剥ぎ取らなくてはならない・・・なんて事があります。この塩噛みは係留艇では起こらない現象です。一方乾燥はというと、チルトチューブのシールがひび割れて切れてオイル漏れを起こしたり、ドライブを蹴り上げたまま保管してベローズがひび割れたりと必ずしも陸置保管もいいことばかりではありません。もちろん係留保管に比べればずっと消耗は少ないものの、過信するのは禁物だということですね。
以上ドライブ周りのトラブルについて述べてきました。ドライブは本当に精巧で繊細な作りをしていますのでどうしてもトラブルが発生しがちです。是非上手く付き合って長持ちさせてください。次号では気になる電蝕についてお話差し上げます。