11月の声を聞き朝夕はそろそろ肌寒くなってきました。楽しかった20世紀最後のボートシーズンもいよいよ終盤です。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
さて船内外機船で使われているドライブは、大変手軽ですがその構造が複雑なため様々なトラブルを引き起こし勝ちです。今月号ではその構造や間接周りのトラブルについてお届けします。
手軽なドライブですが
その構造は複雑
インアウト、船内外機、アウトドライブといろいろな呼び方がありますが、通称ドライブと呼ばれている部分は推進器と舵とをミックスしたような構造をしており、大変手軽でコンパクトなので20?32feetくらいの中型艇で広く使われています。最近ではエンジンメーカーもアウトドライブとセットになったパッケージを用意しており、ボートメーカーもこういったパッケージを使用することを前提として艇の設計を行っているのが普通です。このアウトドライブは船外機に比べて、より大きなエンジンやより大きなギアケースを持ち、大きなスクリューやハイパフォーマンススクリュー等も使えバリエーションが多くなります。さてこの様に便利で手軽なドライブですがその構造はどうしても複雑になります。そのためその構造故のトラブルというものも多いので、まずはざっとドライブの構造をおさらいしてみましょう。
ドライブは大きく分けて3つの部分に分けることが出来ます。1つ目はトランサムプレートに強固に取り付けられたブラケット部分、2つ目はドライブを上下左右に自在に動かすジンバルハウジング、そして3つ目はギァやシャフト、スクリューの付いているドライブギアケース本体です。この中でよく駄目になるのがジンバルハウジングとギアケース本体です。さてでは具体的にどの様なトラブルがあるのか見てみましょう。
ドライブの関節
ジンバルハウジング
ジンバルハウジングはステアリングに直結しハンドルの切れに応じてドライブ全体を左右に振ります。また最適な航行状態に合わせるためトリムを調整したり、ビーチングや上架時にチルトアップしたりと上下方向にも自由に振れます。このためジンバルハウジングは上下左右に軸を持つ2組の回転軸を持っています。しかもその中にはエンジンの力を伝えるためのユニバーサルジョイントとなっているドライブシャフトやエンジンの排気、冷却水ホース、シフトケーブルなど所狭しと集まっています。この様な多重軸構造になっているため、水密を保つためにはゴムのベローズというジョイントを用いています。後述しますがこの部分がドライブの弱点の1つでもあります。
またエンジンの馬力は大から小まで色々とありますが、いずれのドライブもピポッドピンを持ち、総ての荷重がここに掛り、しかもOリング1つで水密を保っていたりするのでなかなかに気を使います。
この部分で筆者がめぐり遭ったトラブルは、ベローズからの水漏れとピポッドピンからの水漏れ、ステアリングのガタ等がありました。特にこのベローズからの水漏れは多量の浸水となって沈没の危険がありますので十分に注意しないといけません。メーカーもインペラと同様に短い周期での交換を勧めていますが、ほとんどの方はなかなか交換されていないのが現状のようです。でも本当に万一の際は重大な事態に陥りますので常に注意を払ってくださいね。筆者の場合は毎年とは言わないまでも2年毎には交換していたのですが、交換して間もない頃です。ある時上架してみるとどうもビルジが多いのです。よくよくチェックしてみるとシフトベローズにマッチ棒大の穴が開いていました。どうやら台風シーズンで木屑等のゴミがある水面を走ったとき、チルト時やステアリング時にプスっという感じで刺さったらしいのです。10秒に1滴程度の漏れ方でも馬鹿には出来ません。塵も積もればなんとやらで相当な量になりました。オートビルジもバッテリーがなくなれば役に立ちません。ドライブ艇ではたとえ1滴といえども水を漏らさないように注意が必要です。皆さんもくれぐれも帰港後の点検は疎かにしないでくださいね。
チルトピンの方は夜間川筋を航行中に大きなゴミを引っ掛けてしまった時の事です。特にショックもダメージもなく取り去って帰港し係留しておいたのですが、翌日チェックしに行ってみるとエンジンベッドの上までビルジが溜まっているではないですか!この時はオートビルジが死んでいたのでしょう。怖気をふるいながら大慌てでマニュアルでポンプを動かしました。最初はどこから漏っているか全然分からなかったのですが、よくよく見るとドライブを左右に振るピンの部分から30秒に1滴位の割合で水が滴っていました。本当に僅かな漏れでしたが長い時間では相当な量になるということですね。このときはたまたま虫が知らせてチェックしに行ったから良かったようなものの、もし翌週まで放っておいたら間違いなく沈してしまったことでしょう。よく仲間内の冗談で言うのですが本当に「フライブリッジしか出てないよ・・・」という状態になるところでした。笑。
この時はゴミが引っかかってピンに無理が掛かってOリングで止め切れないほどの隙間が出来て漏ったようです。悪かったものはそのピンだけでしたが結局、交換するためにエンジンまで全部下ろしての作業になりましたから大損害でした。
またガタの方は長年使っていて、ステアリングアームが付けられているシャフトの周りが痩せてきてガタが出てしまいました。この痩せはある程度は矯正できるようにUボルトで締め込むようになっているのですが、使っていくうちにそのUボルトの締めしろがなくなってしまったのですからもうお手上げです。ドライブを手で揺するとグラリグラリと振れるんです。走ってみるとなんとなく右に左にヨレるような感じ・・・といえば分かって頂けますでしょうか?このときも泣く泣くオーバーホールをしました。1機掛けの場合は比較対照がないのでなかなか分からないのですが、ドライブをゆさゆさ揺すってガタがあるものは早晩オーバーホールが必要です。中古艇を選ぶときは良く注意してください。2機掛けの場合は左右の振れ具合が揃っているかどうかなどをチェックすると良いと思います。
その他のジンバルのトラブルとしては通常のトリム位置を越えてチルトアップして痛めてしまう事が多いようです。これはドライブシャフトのユニバーサルジョイントに無理が掛かるというのと、そのユニバーサルジョイントがベローズに擦れて無理が掛かるというものです。またトリム位置を越えるとジバルハウジングの支えがなくなり損傷することもあります。
チルトのトラブルも意外と多い
ドライブを上下するには油圧ポンプを使っていますがここもよくトラブルを起こすところです。上がらなくなってしまったもの下がらなくなってしまったもの、勝手に上がり下がりしてしまうものなどいろいろな症状がありますがいくつか紹介しましょう。
ある夏の日筆者が海水浴に出かけた帰りのことです。走りに応じて上げ下げしているドライブが突然反応しなくなってしまったのです。動かなくなってしまったときにちょっと蹴り上げていたので始末におえません。一旦プレーニングをやめてしまうと、次に加速するときに上ばかり向いてしまってなかなか加速できずに苦労しました。この日は凪いでいたので助かりましたが荒れていたと思うとぞっとします。原因はチルトポンプに海水を被ったためのモーターのショートでした。こうなっては洋上ではお手上げです。ボートの機器はマリン仕様とはなっているとはいえ、極力水が掛からないようにしましょうね。
まちこちらは友人の話。潮干狩りをしていざ帰ろうとしたらドライブが下がらないと電話が掛かってきました。いろいろ話を聞くと、どうもスイッチの接触不良っぽい。ジャンプケーブルでバッテリーとチルトポンプを直結したら無事下ろすことができました。この時は大いに感謝されましたが、内情を話せばチルトポンプのソレノイドがカチカチ言ってるのに動かないのはポンプの不良、何も言わないのは配線周りの接触不良が多いという経験則がたまたま当たっただけです。無事動いたと聞いてお役御免とほっと胸をなでおろしたのは言うまでもありません。笑。でもこういう時のために、基本的な配線など知っておくと良いですね。
こちらはあまり深刻なものではないのですが、ドライブは普通に下がるし一杯に上げるトレーラースイッチは生きているのに、チルトを蹴り上げようと動かしても動かないというトラブルです。これはドライブ横に付いているチルトリミットセンサーの不良です。このセンサーは限度を超えて蹴り上げた状態にならないように付けられているセンサーなのですが、よく水が入って接点が駄目になったり外に剥き出しになっているケーブルが切れたりして反応しなくなってしまうのです。トレーラーボタンで上がるのにチルトボタンであがらない場合は間違いなくこれでしょう。こちらも洋上での修理はやりようがありませんが、上がらないのは走るのにそれほど支障となりませんし、どうしても上げたかったらトレーラーボタンをチョンチョンっと操作すれば多少の調整は利きますので気は楽です。
さてここまではチルトのトラブルといっても軽症の部類。もっともっと重症なトラブルがあります。一番多いのは障害物との衝突によるものでしょう。航行中に流木や浅瀬などにドライブをぶつけてしまうと、その駆動機構に多大な無理が掛かります。知人の艇の話です。浅瀬でドライブをぶつけた後、蹴り上げていても勝手に一杯に下がった状態になってしまったり、バックしようとするとドライブが持ち上がってしまったりなどというトラブルに見舞われた例がありました。ぶつかった衝撃でチルトポンプのソレノイドバルブに無理が掛かって破損してしまったようなのです。ポンプは生きているので操作はできますがバルブが壊れて油圧回路を閉じられなくなって保持ができなくなってしまったのです。この時はポンプの交換だけで事なきを得ましたが、その他にも同じ様に障害物にぶつけてチルトアクチュエーターのオイルシールやオイルパイプを破損してオイルがダダ漏れになって手の付けようがなくなってしまった艇もありました。
ドライブ本体はギアの塊
次はドライブの本体です。これはと外から見える部分の90%を占めています。簡単に言うとこのドライブの本体はギアとベアリングの塊です。しかもその中にはドライブシャフトあり冷却水パイプあり排気パイプありクラッチありと様々なパーツが所狭しと詰め込まれているのです。このためドライブの内側は数区画に分割されそれぞれの機能が分割しています。この中で特に大切なのはダイナミックに常に回転してエンジンパワーを伝達しているドライブトレインです。他の物は回転部分がないただの通路ですから問題となることはあまりありませんので割愛しましょう。
このシャフトが入っている部分は大まかに言って、区画の中央に軸が通りその両端をベアリングで保持している・・・という形をとっています。しかしその軸はエンジンとプロペラの位置関係からZ字に折り曲げられており、その個所個所で大きなギアが使われています。しかもクラッチに繋がる前後進用のギアがあるという具合に、その噛み合い個所はかなりのものになります。中でも2重反転プロペラを使用しているドライブなどでは信じられないくらいの数多くのギアが詰め込まれています。
このためドライブは非常に精巧な作りをしているのです。またこの大切なギアやベアリングを保護するためオイルが充填されており、結構このオイルの維持管理がドライブの寿命を左右するポイントだったりします。さてではどの様なトラブルがあるか見てみましょう。まずはクラッチ周りです。
エンスト
ドライブなのにエンスト?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、船内外機のクラッチはドライブ内部にありますのであながち無縁というわけではありません。特に良く使われているマーキュリーマリンのアルファ1ドライブの場合に良く見受けられます。筆者もこのドライブを愛用していてそのパーフォーマンス、耐久性とも大変気に入っているのですが、唯一このエンストに関しては悩みました。これはニュートラルから前後進、また前後進からニュートラルに切り替えるときにエンストしてしまうという現象です。これはよく離着岸時のような際どいところで止まってしまうのでとても焦ります。特にクラッチをスパッと切らないでずずっとひきずる様に操作したときに多いのです。結構頻繁見受けられ悩んでいるオーナーも多いのではと思いますが、この原因はシフト時のショックを軽減し様というカットオフスイッチの調整不良です。このドライブはクラッチがミートするとき、切れるときに一瞬エンジンの回転を止めてショックを少なくする造作があります。このカットオフタイミングが狂ってくるとクラッチを操作したときに一瞬止めるだけではなくエンストさせてしまうんです。原因は単なるシフトストロークとスイッチの調整不良です。マニュアルには細かな規定があるのですが、簡単にチェックするにはギアをゆっくり繋いだり切ったりしてエンストしないか確かめてみましょう。ずれてきていればこれでエンストするはずです。もっともギアには良くないですから普段はスパっとやってくださいね。もちろんちゃんと規定どおり調整されていれば、どんな風に操作してもエンストはしませんのでご安心を。でもこれは本当にエンジンが調子悪いと勘違いする人も多いので注意しましょう。
クラッチの弱点
さてクラッチのトラブルが出てきたついでにもうひとつ。中型以上のドライブのクラッチにはコーンクラッチが良く使われていますが、このコーンクラッチには意外な弱点があります。ディーゼル船内外機艇ともなれば沖合いでトローリングをしたいと思う方も多いはず。しかしこのコーンクラッチは低速でのトローリングが苦手なのです。
コーンクラッチは、クラッチがミートしたときの摩擦力を推進軸に加わる出力に依存しています。このため低速での航行が苦手なんです。全く同じエンジンや艇同士でも、いつもクルージングスピードで走り回っている艇はなんともないのにトローリングばかりしている艇では年中クラッチが逝ってしまったりするのです。その辺りの特性をよく理解してあげてくださいね。
またこれはちょっと違いますがハンプ域での低速航行はオーバーロードになりオーバーヒートしてしまったり、エンジンのあちこちをスラッジだらけにしてしまったりする事にもなりますから別の意味で注意してくださいね。このエンジンの話についてはまた改めてお届けします。
ギアの破損
マニュアルミッションの車を運転したことがある方なら経験があると思うのですが、前進からバックに入れようとしてまだ前進の惰性があるときにミッションを入れようとしてもガガガガ?といって蹴られますよね?車の場合は入れようにも入れられないのですがボートの場合は少々話が違います。無理をすればガンッと入ってしまいますがこれはトラブルの元です。クラッチをニュートラルにしてもスクリューには今まで回っていた惰性もありますし、行き足があれば水の中で回されていますから、いきなり後進に入れられたらギアが悲鳴をあげてしまいます。実際着岸時などに焦って前進からいきなり後進に入れた人がいて、ギャッという音とともに入ったは良いけどドライブ内部のギアが欠けてしまって結局オーバーホールをしなくてはならなくなった人がいました。前進から急に後進に入れるの
(クラッシュストップ) は、危険回避など止むを得ない時の非常手段であって駆動系のトラブルを覚悟しておいてください。
この様に前進後進を切り替えるときは、一旦ニュートラルにして十分間を置いて行き足がなくなってから逆方向に入れてくださいね。筆者は前後進を入れ替えるときは、前進からニュートラルにしてワン・ツー・スリー、後進からニュートラルにするときもワン・ツー・スリーとぶつぶつ呟きながら操作しています。ですからあまり頻繁に前後進を入れ替えるのは考えもの。着岸時など操作するたびに惰性がつきすぎてしまい、慌てて反対に入れて「引き算」するのは良くありません。必ず少し少なめに操作して、足りない時は「足し算」してくださいね。この「足し算」は操船の極意でもあります。これもまた改めてご紹介しますね。
以上ドライブの間接周りのトラブルを中心に述べてきました。今度是非愛艇のこの部分がどうなっているかじっくり見てみてください。少しずつ分かるようになると思います。
次号では引き続きドライブのギアケース本体のトラブルについてお話差し上げます。