ムシムシした梅雨も明け待ちに待った夏がやって来ました。いよいよ最も楽しいボーティングシーンの幕開けです。照りつける太陽の光を一身に浴びて走る海原は爽快の一言に尽きますね。でも嬉しさのあまり調子に乗ると後で大変なことにも。今月号では真夏に起こしがちな事故や病気についてお届けします。
日焼け
晴れ渡った空の下、太陽の光を浴びるのはとても気持ちの良いものですが、過度の日焼けには注意しないといけません。「日焼けは軽い火傷です」っていうフレーズを聞いたことがあるかと思いますが、英語で言うと日焼けはSunburn、つまり太陽による火傷と書きます。特にボートで海水浴などする場合は開放感も手伝ってついつい肌の防御を忘れがちですが、調子に乗って遊んでいると後でひどい目に遭います。海や山は紫外線が強いと言うのは聞いたことがあると思いますが、ボートは広い海原を走りますのでその照り返しを一身に浴びるのです。
ある夏の日、海水浴に行ったとき同乗の友人がはしゃぎすぎて日に当たり過ぎました。真っ赤っかになりながら楽しげにしていたのですが、なんだか帰りに元気がありません。シートに座って下に突っ伏しています。最初は疲れて寝ているのかと思ったのですがちょっと様子がおかしい。聞いてみると猛烈に寒気がするとの事。肌に触ってみるとすごい熱を持っているではないですか?いきなり強烈な海の紫外線に肌を焼いたため、全身ひどい日焼けを起こしてしまったようなのです。まさか全身水に浸ける訳にもいかず、寒がるので日焼けローションを塗って保温して横にさせました。たっぷり水分を取らせながら休養させると幸い帰港するころには元気になって帰っていきましたが、一時はどうなることかと心配させられました。後日話を聞くと体中ヒリヒリしてしばらくは風呂に入るのも服を着るのも難儀したということですが、まあその程度で済んだのでしたら楽しいクルージングの思い出としてくれと言っておきました。でもそのちょっとした事件があってからゲストのみんなの日焼けにも注意するようになったことは言うまでもありません。
余談ですが筆者は昔から太陽が大好きで毎年のように真っ黒になっていたものですが、最近は寄る年波であちこちシミやらソバカスやらが大発生し皮膚科の医者からも「もう焼かない方がいいよ」と忠告をもらい、極力肌を焼かないように心がけています。(;_;)
日射病
日焼けと兄妹のようなものですが、カンカン照りに照らされて体温調整の機能が狂うと起こります。先にも言いましたがボートの上は日差しが強い上に風に吹かれます。そのため体の表面からどんどん水分が蒸発して失われます。特に女性ではトイレに行くのを我慢したくないために水分を控える方がいらっしゃいますがこれは危険です。尾篭な話で恐縮ですが、おしっこが出なくなったら要注意と思ってください。どんどん飲んでどんどん出そうと言うのが筆者のモットーです。そうすれば日射病にもなりにくいですし脱水症状を起こすこともありません。筆者はビール好きで舫を解いては乾杯、舫をとっては乾杯とよく飲んでいますが(あっ酒酔い運転はしていませんので念のため。あくまでも嗜む程度です。って周りの目が冷たい?)、アルコール分は体の細胞から逆に水分を出させてしまうので、あまり水分補給という観点からは役に立たないようです。つとめてお茶や水、スポーツドリンクのようなものを摂るように心がけましょう。
筆者も一度夏場クルージングに行って帰ってくると頭の芯がズキズキして寝込んでしまったことがありました。おつむの上を見てもらうと真っ赤になっているとの事。「はは?日に当たりすぎたな」と合点がいきました。真夏の太陽を甘く見てはいけませんね。
溺水!
およそボート遊びをしている上で最悪のケースがこれでしょう。その状況は海水浴であったり、不意の落水であったりと色々とある様です。またこれは筆者には耳の痛いことなのですが特にお酒を飲んで酔っ払って水に入り溺れる・・・というケースが目立つようです。昨年もボートに乗りかなりお酒を飲んだ人が海水浴を始めて溺死したなんていうニュースがありました。 カメラがパンするとボートには多くのビール缶が並んでいたそうです。 くれぐれもお酒を飲んでの水遊びには気をつけましょうね。
また小さいお子さんは万一落水すると、「それこそ石の様に沈んでいくぞ・・・」とその道の専門家からずいぶん脅かされました。ボートの上では是非子供にライフジャケットを着せる習慣をつけましょう。本当は全員着るべきでしょうがなかなかそうはいきません。しかし子供を守るのは大人の義務ですから。
ボートオーナーなら混雑した海水浴場を尻目に静かな入り江や沖合でアンカリングして海水浴をするのを楽しみにしている人も多いでしょう。かく言う筆者も大好きでよくやるのですが、そういう場所で泳ぐからにはあくまでも自己責任で安全に注意しましょうね。日本には外国のように身の回りに危険な鮫や毒クラゲがうじゃうじゃいるということはないですが、近くに危険な岩場がないかどうか?潮の流れが速くないかどうか?などには注意しましょう。筆者も一度沖合にアンカリングして海水浴していたとき、海はべた凪なんですが潮の流れが速く、うっかりしてボートから遠く流されてしまい泳ぎ戻るのに必死になったことがありました。今でも結構ドキドキしたのを思い出します。そういうところで海水浴を楽しむときはキャプテンは自分の遊びはほどほどに。常に同乗者の動向に注意して危険な状態にならないように気を配りましょう。
また筆者は子供のころから泳ぐのが大好きでずっと水泳部にいました。昔から河童だなんだと散々言われ最近はラッコだトドだアザラシだと呼ばれていますが、そんな筆者でも服を着たまま泳ぐのは一苦労です。体にまとわりついて本当に泳げないものなんですよ。だまされたと思って一回服を着たまま泳いでみてください。一度試しておくとどんなものだかわかりいざという時パニックにならないで済みます。
ボート遊びはこういった事故が起こりやすい環境であるという自覚の元、キャプテンは是非CPR(心肺蘇生術)は学んでおきましょう。このCPRのテクニックは別として、心構えとして大切なことを2点だけ覚えておいてください。第1は1分でも1秒でも早く始めること。第2は絶対諦めてはいけないということ。適切な医療機関にバトンタッチするまで1時間でも2時間でもやるのです。この2つの事を肝に銘じておいてください。
これは溺水ではないのですが、ボート仲間と護岸に着けてお花見をしていた時、突然近くにいたおじいさんが倒れた事がありました。大騒ぎしているので行ってみると呼吸も止まっていますし脈も触れません。これは一大事とばかりすぐに救急車を呼んだのですが事は一刻を争います。幸いお花見をしていたボート仲間の中に医者と薬剤師がいましたのですぐに呼んで、心臓マッサージとマウストゥーマウスの人工呼吸を開始しました。蘇生術を施すこと10分、無事に息を吹き返し救急車が到着した時には自分で歩けるほどになったのですが、もし救急車到着まで手をこまねいて蘇生術を施さなかったとしたら間違いなく助からなかったとの事。本当に運の良いおじいさんです。実際に緊急事態を目にすることが出来て筆者にとっても貴重な経験でした。CPRの訓練などでやり方は知ってはいますが実際にやるとなるとかなりの違いがあります。もし自分がやらなくてはならなくなったとしたら是非勇気をもって行いたいなと決意を新たにしたのでした。
もちろん無事お役目を終えた件のお医者様と薬剤師は仲間から大きな尊敬とともに、お疲れ様の乾杯が繰り返されました。無事助かったときは美味しいお酒ですよね。ところでそんな立派なお医者様ですが帰路に自分が落水して救助されたなんて言うことは口が裂けてもいえません。笑。
毒魚に刺されたら?
そろそろ海水浴シーズンですが、ご存知の様に海の中には様々な生物が棲んでいます。そのなかには人間にとってあまりありがたくない毒を持つ生き物も数多くいます。その代表的なものがクラゲとかゴンズイ・エイなどの毒魚達です。普通の海水浴場でしたら問題となるのはミズクラゲ程度でしょうが、これとて刺されると結構チクチクします。中にはカツオノエボシの様に切れた触手に触れただけでもビリビリビリと猛烈な痺れがくるものもあります。こんなとき痛みを和らげる薬があると助かります。
さらにこういった海水浴場以外の砂州や岩礁で遊んでいるときはもっといろいろなものに注意が必要です。筆者が友人たちと沖合の浅瀬で潮干狩りを楽しんでいたときのこと。友人の一人が急に「イテテテテテ!」と悲鳴をあげました。なにやら急に足首に激痛が走ったとの事。見てみるとウエットスーツにプッツリ穴があいて何かに刺されています。そう。エイに刺されたのです。エイの尾ひれには鋭い毒刺があって危険を感じたりすると猛然と襲ってきます。普通エイの方から積極的に襲ってくるということはないのですが、このときはどうやら潮干狩りをしていて知らずに踏んづけてしまったようなのです。筆者はエイ地雷と呼んでいますが、ともかくウエットスーツをものともせずに突き刺すのですから驚きです。見る見るうちに腫れ上がって友人は身動きが取れなくなってしまいました。こういう毒魚に刺されたときはともかく毒を吸出してやるのが基本です。急いでボートに運んで応急処置を施しました。よく映画などでは刺された場所をナイフで切って口で吸い出す・・・なんてシーンがありますが、あんな事はなかなか実際にはできません。刺された場所はくるぶしの所だったので切るにも切れず、刺が残っていないか痛がるのを無視してグリグリ探し、その後でエキストラクターを張り付けて血を吸い出しました。かなりの量を吸い出し、いい加減もう出なくなったのを確認した後、ステロイド系の軟膏を塗ってパッチを当ててお仕舞です。もちろんその間血を見て「なんかエイの毒よりこっちの血のほうが心配だな?おまえ変なビョーキ持ってないだろうな??」「あっ俺も自信がないぞ気をつけろ」なんていう他愛のない会話は忘れません。本人は痛くてしかめっ面していますからこちらも必死の形相になって目を吊り上げてはいけないのです。なるべくリラックスさせるように慌てず騒がず冷静に対処しましょうね。幸い友人はしばらく休んだ後で無事元気を回復しウエイクボードなどやっていました。でもなんだかんだと一週間くらいは腫れてびっこを引いていましたからエイの毒はすごいものです。
その他にもウニを踏んづけてしまって折れた刺が足に残ってしまい、医者に行って抜いてもらったなんて事もありましたので、くれぐれもご用心を。
楽しいマリンプレイも危険がいっぱい
これからの季節ボート遊びとともに、PWC、ウェイクボート、バナナボート、スキービスケット等の様々なマリンプレイを楽しむ方も多いかと思います。筆者も好きでよくやるのですが意外と怪我をしやすいのをご存知ですか?
まずはPWC。最近のものはハイパワー化して相当なスピードが出ます。何艇も集まって走り回れば衝突の危険もあります。幸い筆者の周りではこういった事故はありませんが時々耳にしますのでくれぐれも注意してくださいね。こういった衝突を別として筆者はPWCで2度骨折したことがあるのです。1度目は一人でスポーツライドを楽しんでいたときの事。ハイスピードでターンをしたとき派手にハイサイドを起こして投げ出されてしまいました。そして水面に落ちたときちょうど落ちどころが悪く水を抱いてしまい、右脇の一番下の肋骨を折ってしまいました。たかが水といっても馬鹿にしてはいけません。皆さんも水泳の飛び込みで腹を打って痛い思いをしたことがあると思いますが、40knotで投げ出されるとちょうど水面に小石を投げた時のように、自分が水の上をピョンピョンと水面を跳ねていくのがよくわかります。この時は角度が悪かったのか一気に水を掴んでしまい、ほとんど一点で止まったようになり、その衝撃に「ウッ!」っと唸ったまましばらくは身動きできませんでした。こういうときもしライフジャケットを着ていなかったりたらきっと溺れてしまうんでしょうね。
2度目は友人を後ろに乗せて走っていたときの事です。観光船の曳き波で大きなウエーブジャンプをして着水したとき後ろの友人が堪え切れずに前にズズっとのめってきてその弾みでハンドルに胸を強打したのです。その時も胸の一番下の肋骨を折ってしまいました。それ以後人を乗せているときは派手な事はしないように気をつけているのは言うまでもありません。
いずれのケースも骨がずれて飛び出すなどの大事には至らなかったので、その場でガムテープでテーピングして帰ってきました。えっ?そんな事で良いのかって?まあ肋骨はずれてさえいなければ医者へ行っても同じですからね。以前折った経験があったので慌てずにすみました。これなんかも経験の尊さって言うのですかね?笑。
その他にも知人がフリースタイルのジャンプをやっていてハンドルに顎を強打して裂傷を負い、大渋滞の行楽地の中救急車で延々と運ばれて手当てを受けた事もありました。この様にボートが車に当たるとするとPWCはモトクロスバイクのようなものですのでご注意を。
トーイングにもご注意を
最近上ウエイクボードなどのトーイングが盛んですが、筆者も水上スキーで転倒した際水を抱いてしまい、やはり肋骨を折ってしまった事がありました。同じく友人が転倒した際水上スキーと揉まれて大きなこぶを作ったり頭の上を切ってしまったりしたことがあります。ウエイクボードも上達するに従い膝や足首の靭帯を延ばしてしまったりと怪我をするようなので油断は禁物。
その他気軽なトーインググッズであるバナナボートでも肩を脱臼してしまったり、くるぶしを骨折してしまったりといろいろな事がありました。もっともこの時はちょっとスピードを出しすぎたかと反省はしているのですが・・・。
またスキービスケットを曳いていて調子に乗って岸辺に近づきすぎてカーブをしたとき振り子のように膨らんでそのまま岸の上に乗り上げて転げまわったのを目撃したことがあります。幸い砂地だったので怪我はありませんでしたがこれが岩場だったらただでは済まない所でした。海水浴で岩場に叩きつけられて怪我をなさった経験をお持ちの方も多いでしょう。こういったマリンプレイをするときは出来る事ならウエットスーツやラッシュガードを身に付けておきたいですね。何かあっても怪我の度合いがぜんぜん違ってきます。
さらにトーイングをしている時はドライバーは決して気を抜いてはいけません。ライダーが水中に入るとき出るときは必ずエンジンを停止して下さい。万一何かの弾みでシフトが入ったらスクリューで切り刻んでしまうからです。実際に数年前琵琶湖でトーイングを終えてボートに上がろうとした女性のお腹をスクリューで切り裂いてしまって亡くなってしまったという痛ましい事故がありました。その他に何件もこういった話が聞こえてきますのでくれぐれも気をつけてくださいね。
以上ボートの上で起こる事故や怪我、病気について述べてきました。ごらんの通り筆者は生来そそっかしいので怪我が多いのです。こんな筆者の体験を他山の石として、是非皆さんは海の上で病気や怪我がないようにしてくださいね。皆さんの楽しいボーティングシーンをお祈りしています。
次号は荒天時のトラブルについてお話し差し上げます。