毎日うっとうしい雨が続いていますがもうすぐ待望の夏がやってきます。ロングクルージングやフィッシング、海水浴等の計画を立てている方も多いかと思います。でもそういった計画をする時は是非人間に対する注意も忘れないで下さいね。陸上の生活とは違いボートの上は危険がいっぱい。しかもある意味山の中と同じくらい隔絶された世界ですので、何かあってもとりあえず自力で何とかしなくてはならないのです。今月号から2回に分けてそんなボートの上で起こる怪我や病気についてお届けします。
ボートは孤島にいるのと
同じだという事を忘れずに
まずボーティングシーンにおける怪我や病気のことを考えたときに、必ず頭に入れておいて頂きたい言葉です。ボートの上は陸とは隔絶された世界です。万一怪我人や病人が出たとしても、最寄りのマリーナや港に戻るまではなんとしても自力で対処しなくてはならない。この事を忘れないで下さい。これをしっかり理解していればある程度の救急用品を積んでおくのは当然の事とご理解頂けると思います。そそっかしくて怪我が絶えない筆者は色々な救急用品を積んでいますが、せめて消毒薬やカットバン、包帯などは準備なさってくださいね。さて、その内容は皆さんそれぞれ考えていただくとして、ここでは筆者が実際にボートの上で巡り遭った怪我や病気をご紹介しましょう。
一番多いのはちょっとした切り傷
やはりボートの上で一番起こり易いのはちょっとした切り傷でしょう。水辺では皮膚もふやけて弱くなっていますから、ちょっとした事でも結構深く切ったりします。最近はメーカーさんもいろいろと気を遣って鋭い加工個所など残さない様にはなって来ていますが、あちこちにある金具やハッチの奥などまだまだFRPのバリが出ているようなところも残っています。こういうところに何の気なしに手を突っ込むと怪我の元。切り傷にならなくてもガラス繊維が刺さることもあります。これはこれでいつまでもチクチクと痛痒く結構切ないものです。筆者はこんな事もあってFRP加工は敬遠しているのですが、これはまた別の機会に。
エンジン周りを触るときはホース止めに良く使われているステンレスのタイバンドに注意してください。あれが結構曲者なんです。ベルトの余った部分が外側に出ているので、手を奥に突っ込むときにはなんでもなくても抜こうとすると決まって引っかかるんです。肘や手首、足首などが良くやってしまう所。ビニールテープを巻くのも一案ですが、後でベタベタしてしまって始末に終えないことも多いので筆者は余り好きではありません。いつも痛い思いをしながら体で覚えています。同じ様にタイラップの切り口にも注意してくださいね。
また以前もちょっとお話したことがありますが、スクリューに絡みついたゴミを取ろうとしていたとき、勢いよく外れた弾みで手をスクリューにぶつけて手の甲をざっくり切ってしまった事もありました。スクリューの前縁は結構鋭いですし、水中で皮膚もふやけて弱くなっていますからこういった作業をするときは必ず手袋をしておきたいものです。この時は結構太い血管も切れたらしくドクドクと血が流れるので、あり合わせのタオルで止血して急遽マリーナまで戻り医者に掛かりました。
その他時化の中GPSを操作しようとしていたところ、突然の大きな揺れでひどく突き指してしまったり、的を外して操作ボタンの枠で爪を剥がしてしまったりしたことが思い出されます。
また友人がR社の携行缶から給油しようとした時、取っ手の角が鋭利になっていたために指をえぐるように深く切ってしまった事がありました。この時はすぐに医者にも掛かれずに大変難儀しました。その後同社の製品は改善されて手を切らないようにバーが追加された様ですが、本来これなどはPL法に引っかかるのでしょうね。筆者も同じ物を幾つも持っているのですが改修してくれないものでしょうか?これなどボートの上はどこに危険が潜んでいるか分からないという見本みたいな出来事でした。
その他ボートの上以外でも海水浴で岩場で遊んでいて波に叩き付けられたり、潮干狩りをしていて貝殻などで足を切ったりと実に些細な原因で怪我をすることがあります。こういう時のために是非ビーチサンダルはなくでマリンブーツを履きたいものです。
象も泣くといいますが
トゲも大変切ないものです。筆者も一度指先にトゲを刺してしまい、どうにも我慢できなかったので、手持ちのラジオペンチやニッパなどで取ろうとしたのですがどうしても取れず、カッターで皮膚を切り開いたりとずいぶん痛い思いをしてやっとのことで取った思い出があります。もしかすると無理に取らずにそのまま我慢していた方が痛くなかったのではと思うほどでした。もちろんそれ以来刺抜きを常備するようになったのは言うまでもありません。
また爪切りもあると重宝します。ある時、潮干狩りをしているときに人差し指の爪が半分割れて剥げかかって困ったことがありました。ささくれてしまった部分が引っかかるとそれはそれは痛いのです。でも切ろうにも何もない・・・。この時も結構切ない思いをしました。もちろん今では爪切りも積んであります。
釣られちゃ大変
これはとんと間抜けな話なんですが、以前釣りの真似事をしていて釣り針を自分の指に刺してしまった事があります。釣り針は返しが付いているのでなかなか抜けません。非常に痛くて難儀しました。そしてこんな針に釣られる魚の気持ちがちょっと分かったような気がして「気の毒にな?。」と同情したのを思い出します。
また釣りと言えば釣り糸が顔に引っかかって火傷したことがあるのです。筆者は東京でボーティングしていますが東京には川や運河が網の目のように走っています。ジェットスキーもこよなく愛する筆者はよく一人でこういった河川をぶらりとツーリングに行くのですが、鏡のような水面を気持ちよく飛ばし、ある橋の下を通りかかったときのこと。突然顔面に何か引っかかったと思うとツーとものすごく熱くなり次の瞬間顎をゴーンと突き上げられると同時にサングラスが吹き飛びました。何が起こったか・・・そう釣り糸に引っかかったのです。橋の上から釣り糸を垂れている太公望が多いのは知っていましたが、まさか往来の激しい航路の真中に糸を垂れているとは思いませんでした。顔の真中に斜めに釣り糸が走って火傷をし、顎の下は天秤と錘がぶつかって腫れ上がりしかも買ったばかりの度付のサングラスを無くしたとあって大損害でした。ひとしきり苦しんだ後、恨みがましく橋を見上げるも件の釣り人はスタコラサッサとお帰りになった後。まあしまったと思う気持ちは分かりますが「痛くてのた打ち回っている人をほっといて帰るなんてひどいな?」と恨めしく思ったのはご理解いただけるでしょう。でもまあ針が引っかからなかっただけでも良しとしましょう。もし掛かっていたらと思うとぞっとしました。その日はとてもツーリングを続けるどころではなかったのでマリーナに戻ると、腫れ上がった顔を見てみんな「どうした?」と尋ねます。かくかくしかじかと説明すると、トーイングが好きで同じく内水面をよく走る友人が「はは?おれなんか橋の下を通るときはホーンを鳴らしっぱなしで釣り人を威嚇するよ」との事。以後筆者も橋の下を通るときは十分減速して上に釣り人がいないかキョロキョロしながら通るようにしています。皆さんも気をつけてくださいね。
転倒
いつも凪ばかりだと良いのですが、なかなかそうは問屋が卸しません。時には揉みくちゃになりながら走ることもあるでしょう。そんな時キャプテンは同乗者の身の確保に注意して下さいね。他船の曳き波や大波が来て激しく叩かれそうな時、キャプテンはある程度事前に身構えることができますけれど、同乗者、特にキャビンにいる人は不意打ちですからたまりません。揺れで転倒したりどこかにぶつけたりと結構怪我をしがち。時には天井に吊ってあるものが落ちてきたこともありました。くれぐれも荒天時の操船や同乗者の体の確保については注意してくださいね。
また他停泊中などなんでもない時にも油断は禁物。何艇かを繋いで楽しいラフティングをしていた時の事です。突然「ドシーン」という音がしたので驚いて振り返ってみると、舫を解いていた友人が頭から隣の艇に落っこちているではないですか!後で聞くとなんだかふと意識が遠のき、気が付いたときにはもう落下途中。足首と踵をひどく痛めた上あちこち打撲と擦り傷だらけ。おまけに帰路折からの南西の風でウサギが飛ぶようになった中、痛い体でバランスを崩し顔面からコンソールに激突!メガネまで押しつぶしてしまい散々な目に遭ってしまいました。
筆者も家族だけで出て妻に舫を取らせた時、ガンネルからコックピットに降りた時に濡れたソールに滑って妊婦が転倒!なんていう事がありました。膝から脛をひどく打ったらしく内出血を起こし赤黒く腫れ上がり、お腹もしたたか打ちつけたらしくしきりに痛がっています。一時はどうなることかと心配しましたが何とか無事だったようです。でも下の子の頭が絶壁なのはこのときの事が原因だと後々まで言われているのはご想像の通り。その他川沿いを気持ち良く滑走中に座礁して奥さんが前方に投げ出されて後で散々怒られた友人もいますので、奥方を乗せているときは注意しましょうね。何かあると後が怖いですから。笑。
その他に沖出しして釣りをしていた友人が、波が強い中バウでの作業中、揺れた弾みで転倒し手首をボッキリと折ってしまった事がありました。この時は痛いのを必死に我慢しつつ病院へ向かいましたが着くまでに2時間以上掛かってしまったそうです。また保険証を持っていなかったため請求書を見てまたビックリと散々だったとの事。皆さん旅先には保険書持っていきましょうね。
以上の様にボートの上では意外と転倒するケースが多いようです。是非自分だけではなくボートに不慣れな方に心配りをするようにしてください。
転落
「そんな事ないよ」と思われがちですがボートの上は意外と転落するケースが多いのです。ウォークアラウンドになっている艇以外ではフォアデッキに行くのにサイドデッキを行き来しますが、あれも場合によっては曲芸まがいです。筆者もサイドデッキから滑って足を踏み外してもろに落水したことがありました。しかもこの時ガンネルにしこたま打ちつけて足と腰を打撲。痺れちゃって泳ぐのもままならなかったです。慣れていると思って油断したのがいけなかったんですね。
またフライブリッジが付いている艇では、ラダーを踏み外す事故も後を絶ちません。筆者もそそっかしいのでよく落ちました。航行中揺れている時は注意しているのでないのですが、いつも決まって停泊中なんですよね。一番ひどかったのはクルージング先で海水浴をしていて、ビーチサンダルを履いていたときにフライブリッジから降りようとラダーの一段目に足を掛けたとたん、見事につるっと滑ってそのままもんどりうって下まで転落してしまった時でしょう。あちこち散々打ちつけてビッコを引き引き帰りました。もうひとつは同じく降りるとき最後の方でフライブリッジの床につかまって、うんていよろしく下りるのですが、掴んでいた手がつるっと滑って後頭部を思い切りぶつけた事でしょうね。いずれの場合も大事にはいたらなかったのですが一歩間違えると骨折など大怪我になったかもしれません。痛い体をさすりながら深く反省したのでした。
また離着岸時にボートと桟橋の間に落水すると大変危険です。挟まれちゃいますから。艀で作業なさる方の事故も後を絶たないそうですが、潰れなくても泳ぐに泳げなくなって大変との事。筆者が友人を誘ってクルージングへ行った帰り、着岸するときに舫を持ってもらってゆっくりと近づいていた時のことです。徐々に近づきもう少しというところで友人が早まって桟橋に飛び移ろうとしたので見事に届かずドボンしてしまいました。筆者は「桟橋との間に挟んじゃ大変、スクリューで巻き込んじゃ大変」と大慌てで操船したのは言うまでもありません。幸い暑い時期でしたので事なきを得ましたが、寒い時期でしたら大変な事にもなりかねませんでした。不慣れな人に舫を頼むときはキャプテンが飛び移る時期など大きな声で指示するようにしましょうね。筆者も以後注意しています。
またこれからの季節クルージング先で漁港に入ることも多いと思います。こういった場所は設備の整ったマリーナのポンツーンと異なり、コンクリートの岸壁になっています。しかもこの岸壁は我々プレジャーボートにとって高すぎるケースが多いようです。さらに潮汐によってその段差が大きくなることもあり、上り下りには結構気を遣います。実際友人の艇でクルージング中に立ち寄った漁港の岸壁で夕食を終えて戻ってきたとき、岸壁から降りる時足を踏み外してしたたかに腰を打ちつけて身動きできなくなった人がいました。この人はボート歴何十年のベテランでとても慎重な人なのですがそんな人でも油断すると大変だということですね。この時はたまたま婦長をしているベテラン看護婦が同乗していたので適切な手当てで事なきを得ましたが、気をつけたいものです。
高所作業はは危険がいっぱい
転落といえばフライブリッジの上のハードトップ上にいると本当に怖いですよ。よく夏場に海水浴ついでにフライブリッジから飛び込んだりしますがかなりの衝撃です。下手に飛び込むと「うっ」って唸っちゃうくらい。そのうえさらにそこから高いハードトップだと相当なものでしょう。水に落ちても大丈夫かどうか。ましてや桟橋側に落ちたらただではすまないでしょう。弘法の木登りではないですが高所で作業をする時は十分注意しましょうね。
また陸置保管している艇では陸上での作業中もかなり怖いものがあります。特にボートカバーを掛けている時は足場が悪くなるので余計です。下はコンクリートですし落ちたらただではすみません。実際友人が子供と作業をしているときにちょっと目を離した隙にボートから転落して大怪我してしまったことがありました。当たり所が悪ければあるいは・・・というケースもありますのでよく注意しましょう。
同じく陸置保管している友人艇での話。帰港後洗艇をしている時に自分の持っていたホースで脚立を倒してしまいました。降りるに降りれずえいやっとばかりに飛び降りたとたんに右足に激痛が走ったそうです。学生時代アメフトやスキー鍛えていた友人だったのですが無惨にも捻挫。哀れ病院に行ってギプスを巻いてもらう羽目になったそうです。皆で「もう若くないんだから。」と散々冷やかしたのですが、皆さん船から飛び降りるのはやめましょうね。
以上ボートの上で起こる事故や怪我を中心に述べてきました。よほどマリーナの近くで起こったのならいざ知らず、ボートの上は隔絶された世界です。何かあってもすぐに救急車が来てくれると言う訳にはいきません。少なくとも救助が来るまでの間自力で対処しなくてはならないのです。是非ある程度の救急用品とその使い方を学んでおいてください。
次号は引き続き真夏にありがちな事故や病気の事例についてお話し差し上げます。