いよいよ本格的なボートシーズンがやってきました。筆者も毎週のようにクルージングを楽しんでいます。読者の皆さんはいかがでしょうか?
さて前回まででスクリューの基本的特性やその働きについてお分かりいただけたかと思います。今月はそれを踏まえた上で実際にフィールドで起こるスクリューのトラブルについて述べたいと思います。
過酷なスクリューの運命
スクリューはボートの中でも常に過酷な運命を持っています。自身船底に剥き出しで毎分何千回転もブン周りエンジンの持つパワーを水に伝えています。巡航中のその先端スピードはダイヤ14inch、減速比1.5として時速170km/hにも達します。何かに当たったらただでは済まないのは容易に想像がつきますね。しかも最も低い位置にあるため、水中の障害物と衝突したり座礁したりしたときに真っ先にやられるのもスクリューです。実際長年ボートに乗っていると様々なスクリュー周りのトラブルに遭遇します。今月号ではそんな過酷なスクリューのトラブル事例をご紹介しましょう。
ゴミとの宿命の対決
大都市や大きな河川の周辺をボーティングフィールドにしている方ならきっと思い当たることがあると思うのですが、水面には実に様々なゴミが浮いています。その中でも特に多いのがビニール袋、木屑などです。前回スクリューは非常に繊細なものでほんの僅かな変形でもその効率を著しくスポイルすると書きましたが、航行中にこういったゴミを巻き込むとひどい振動が出たり空回りした様になって、来月号で詳しくお届けするハプのスリップと勘違いすることもあり大変焦ります。
筆者も数え切れないほど何度も引っかかっているのですが、その中から印象的だったものを幾つか取り上げてみましょう。
筆者が気持ち良く走っている時に、突然スクリューの方から「ブーン」と音がして突然推力を失って失速したことがありました。一瞬「またハブがスリップしたか!」とも思いましたが、なんとなく以前とは感じが違います。恐る恐るドライブを上げてみると20cm位の木切れがものの見事にスクリューのブレードの間に挟まっているではないですか。「なんとうまい具合に挟まったものだな」と変なところに感心しながら取り去ろうとしましたが、がっちり食い込んでしまってなかなか外れません。とうとう業を煮やして羽を傷めないように気をつけながらハンマーで叩いて外しました。
またある日はロープの端切れが引っかかったことがあります。この時も突然失速し回転ばかり上がってしまうというちょっとドキドキする様な症状を示しました。この時は一旦止めてちょっとバックに入れたらロープがフワーっと浮いてきて普通に走れました。以後筆者は何かしら引っかかったような感じになったら一旦止めて瞬間バックに入れて様子をみるようにしています。この方法は場合によってはさらにひどく絡み付けてしまったりすることもあるので、あまりお勧めは出来ませんがいちいちチェックしていたらキリがないくらい多いのです。慣れてくると(こんな事に慣れたくはないのですが)どの程度引っかかったかお尻に感じるようになります。
また別のある日、天気が良いのに休日出勤でくさっていた筆者のところに、まだボートに乗り始めたばかりの友人から「スクリューが滑ってしまった様だ。どうしたら良いだろうか?」と電話が掛かってきました。症状を聞くとそれも十分に有り得る話です。港外にいるとの事なので「とりあえず波の静かな所まで低速で逃げ込んで」と指示しました。そうやって安全を確保した後、アンカーを打たせてエンジンを止めドライブを上げてチェックさせたら、大きなビニール袋が引っかかっていたとの事。無事取り除いて元通りに走れるように成ったのですが、その日はなんとなく怖くなってしまって早々に引き返したとの事です。やはりボート遊びちょっとでも不安になるとだめですよね。上架して点検してみると幸いたいした事はありませんでした。
またウェイクボード好きの筆者の友人がスキーボートで内水面を走っていた時のこと。トーイング中にやはり突然ひどい振動とともに突然失速してしまいました。インボードですのでスクリューをチェックするには水中に潜らなくてはなりません。この時は皆ウエイクボードをしていたので水に入ることは造作もないことでしたが普通だったら一仕事です。マスクを付けて潜ってみると、なんと大きな麻袋ががっちりと絡み付いているではありませんか。早速取り外しに掛かりますが潜っての作業はなかなか大変です。交代しながらの悪戦苦闘。いよいよ外れそうになってエイヤと引っ張った瞬間、勢いよく外れた弾みで手をスクリューにぶつけて手をざっくり切ってしまいました。スクリューの前縁は結構鋭いですし、水中で皮膚もふやけて弱くなっていますからこういった作業をするときは必ず手袋をしておきたいものです。
さらに厄介なのはスクリューにロープを絡み付けてしまったときです。絡み付いてしまった場合は固く締まっていることが多く、普通のナイフでは滑ってしまうだけで歯が立ちません。ましてやカッターナイフなどではお手上げです。こういうときはギザ歯になっているナイフかロープカッターがないと大変なことになります。ぜひこういったものを用意しておいてください。筆者も何度救われたかわかりません。
潮目は危険がいっぱい
潮目という言葉を聞いたことがあると思いますが、この潮目というのは異なった流れがぶつかった部分です。時には海の中にくっきりとした線があることすらあります。魚が集まるので釣りをされる方は必死になって探したりしますよね。でも潮目というはなにも大洋の真っ只中だけにあるのではありません。大きな河川の近くにもその濃度差により相当に大きな潮目ができることがあります。ですから「自分は外洋には出ないから」と油断してはいけません。
こういった潮目は水流が両方からせめぎあうのでゴミが溜まっている事が多々あります。どうしてもこういった場所を横切らなくてはならないときは、無理に突っ切ると余計なトラブルを起こしがちです。特に2重反転のスクリューをお使いの方はスクリューが自動ゴミ拾い機と化してしまうことがありますのでご注意を。ちょうど前後の羽の間にゴミを噛み込んでしまうんです。筆者は良く観察し直前まで近づいた後クラッチを切って惰性で通り過ぎ、十分離れたのを確かめてから改めてクラッチを入れるようにしています。
また万一障害物にヒットした時はアルミペラだと自分だけ「逝って」くれますが、ステンペラは強度があるのでドライブ機構の方まで「道連れ」にしてしまうことがあるなんて言う人もいます。真偽の程は定かではありませんが如何なものでしょうか?
大物との出会い
釣りで大物と出会ったのでしたら嬉しい限りなのですが、大物のゴミとの出会いはほんとに閉口します。40feetのインボード艇に乗っている筆者の知人が、花火大会を見るために荒川を遡っている時スクリューに大きな流木を巻き込んでしまった事がありました。たいしたスピードではなかったのですが「ガーン」という大きな音と衝撃とともにエンストしました。どうやらスクリューの羽根と船底との間に噛み込んでしまったようなのです。幸いすぐに外れて再始動できましたが、クラッチが切れなくなり相当な振動が出てとてもまともに走れる状況ではありませんでした。やむなく片肺で帰港し修理のため上架してみると羽は無残にひん曲がり、ミッションのディスクはばらばらになって張り付いてしまっていました。大きなインボードのスクリューはひとつひとつ受注生産のようなところがあるので、かなりの納期が掛かるのが普通です。この時はミッションも駄目になってしまったのでエンジンを下ろしての大修理となり費用も時間もかなり掛かりました。
同じ様に31feetのインボード艇に乗っている筆者の友人が、荒川河口近くの運河を走っていると突然目の前にロープが浮かんでいるのが見えたそうです。と避ける間もなくスクリューに巻き込みこちらも「バキーン」というすさまじい音響とともにシャフトを繋ぎ止めているフランジのボルトが千切れ飛びました。フランジが抜けてしまったシャフトは当然ブラブラです。水の抵抗でどんどん抜けていき最終的にラダーに当たって止まりました。もしシャフトが抜けてしまえば船底にぽっかりと大穴が開いた状態になり沈没の危険すらあります。幸いスクリュー直後にあるラダーで止まってくれましたから良いようなものまさに紙一重でした。でも片舷で走るにつれ風車と成ったスクリューは無情に空転しラダーをガリガリと削りながら物凄い振動とともに無気味な音を立てていました。いつ抜けるかと冷や冷やしながら近くのマリーナに逃げ込んだとの事。まじめな話携帯に入れてある海上保安庁の番号を呼び出して、ボタン一つで連絡取れるまで用意したそうです。この時はスクリュー及びラダーは比較的軽傷だったため修正するだけで済みましたが、ミッションの方はやはり重傷でオーバーホールとなりました。
また同じくまだ初心者だった32feetのインボード艇での話し。剣埼沖を海図もよく見ずに漫然と走っていて巡航中暗岩にスクリューをヒットさせました。かなり岸寄りを走っていたようです。高速で当てたので当然ただでは済みません。大音響とともにスクリューとブラケットは飴のようにひん曲がり、なんとシャフトまでもがスタッフィングチューブの直後でポッキリ折れてしまったのです。でもグランドパッキンのところでシャフトが残っていたために何とか浸水を免れて帰港しました。もしこれがシャフトが折れずに、スタッフィングチューブがもぎ取れていたら即沈没の非常にきわどい事故でした。
インボード艇ではこうした障害物との衝突は大事に至ることが多いのでぜひ気をつけてください。
浅瀬での一番の被害者も
スクリューです
泊地の周辺にはいろいろと浅瀬があるのが普通ですが、こういったところでも真っ先に着底するのがスクリューです。浅いところでは座礁までは至らないものの、スクリューで海底を掻き回しスクリューやスケグをピカピカにしてしまうことがあります。
普通はこういった浅いところに注意していれば良いのですが、泊地によっては必ずこういったところを通らなくてはならないところもあります。「座礁」の時も少し書きましたが東京近辺では相模川(馬入川)に保管している艇などは、多かれ少なかれみんなピカピカになっています。
筆者のホームポート周辺にも浅瀬が多いので慣れるまではずいぶんスクリューを磨きました。その中でも葛西臨海公園前水路で、水路の真中のにあった岩にスクリューをヒットさせ壊してしまったことが苦い思い出として残っています。
トリムの重要さ
スクリューの直接的なトラブルではないのですがドライプや船外機のトリム位置は航行性に重大な影響があります。一杯に下げた状態のことを「トリムイン」とか「ドライブを追い込んで」、上げた状態の事を「トリムアウト」とか「蹴り上げて」などと言いますが、何故これが影響を及ぼすかというとスクリューの発するスラストの向きが変わるからなんです。
ご存知のように滑走型のボートは船底と水面のなす角度によって発生する揚力で、ミズスマシの様に水面上に浮揚して走ります。このため適切なボートと水面の角度を保つことが重要なファクターになっています。詳しくはまたドライブの時に触れたいと思いますが、停止状態から発進する時は一杯に下げた状態にしておいてボートをプレーニングさせるのを早め、プレーニングしたら少し蹴り上げてあげてやるのが基本です。この様に適切なプレーンアングルを作ることによって、スピードが増すとともに音や振動、燃費も減少しとても走りやすくなります。トリム位置にあまり頓着しない方が多いのですがぜひ一度お試しになってみてください。まるで艇が生まれ変わったように走りが変わります。
しかしとても便利なトリムですが使い方を間違えるとこれもまた問題です。例えばトリムを下げっぱなしにして走ると、バウを突っ込みやすくなりバウステアリングとなり保針するのが困難になります。またスロットル開度との兼ね合いにもよりますが、荒れた海、特に追い波の状態でブローチングしやすくなりますので注意が必要です。
逆にトリムを上げたままにしておくと、加速時にボートが上ばかり向いたり、水面から空気を吸い込むベンチレーションを起こしたりしてしまい、音だけは景気良いのですが加速できないなんてこともあります。筆者の友人にも、ドライブを蹴り上げて調子よく走った後入港し、再び出港するときに、蹴り上げたままなのを忘れて加速しようとして「ウォ?ン」と音ばかり大きくて加速しないので後述するペラのスリップと勘違いして大騒ぎしたことがある人もいます。このくらいならご愛嬌なのですが、蹴り上げすぎると航行中艇がイルカの様に頭を上下に上げたり下げたりするポーポイジングを発生し、乗っている人がたまらないということもあります。この様にドライブのトリム位置は航行性に重要な影響を及ぼしますのでぜひ注意して使ってみてください。
トーイング時のワンポイントアドバイス
ここでトーイング時おけるトリムのちょっと良い使い方。最近はウェイクボードをなさる方も多いと思うのですが、このウェイクボードには曳き波の状態がとても重要です。リップの崩れが少ないなるべく大きいウェイクが望ましいわけで、皆さんポリタンやファットサック等のウェイトを色々持ち込んでいられると思います。こんな時船外機艇やドライブ艇でやられている方はこのトリムを触ってみてください。トーイングスピードでゆっくりと走りながら少しずつトリムを上げてみると、艇によって違いはありますが通常航行の最適トリムより少し蹴り上げたくらいのところで、崩れのないピークのはっきりしたウェイクが出来るはずです。きっと目から鱗が落ちると思いますよ。
ただこの状態では低速で重量が重くライダーを引っ張ってドライブは蹴り上げてと、悪い条件がいくつも重なっていますので、速度の調節に注意しないとすぐベンチレーションを起こしてしまいます。このベンチレーションを起こすとすぐ分かります。スピードががくっと落ちて回転が上がりエンジンがウォーンと唸りスクリューから振動が出ますから。ちょうど失速した感じですね。このベンチレーションを起こしてスクリューが空転を始めたときは慌ててスロットルを開けるとますますひどくなるだけです。一旦スロットルを戻してペラの回転を落とし水面からのエアの吸い込みを断ち切ってやらないと駄目です。ちょうど滑りやすい路面でFR車が後輪を滑らせてしまったときにアクセルを吹かすとますますひどくなるのと似ていますね。これは走り始めるときも同じです。先程もちょっと書きましたが走り始めはスクリューがより水面に近いので余計この傾向があります。あと急カーブを切りながら発進しようとしたときも起こりやすいですね。特に重量のある艇がエンジンをハイマウントしているときは要注意です。
このようにある種特殊な使い方をする場合は、これらベンチレーションやキャビテーションに悩むことがあります。こういうときにはハイレーキのステンペラに換えてみるというのが良いと思います。もっともどの程度改善するかというのはやってみないとなんとも言えないので歯がゆいのですが・・・。これもペラ選びの難しさというやつです。
以上スクリューに関するトラブルをお届けしました。書いているうちにあれもこれもととても1回では書ききれなくなってしまいました。それだけスクリューに関するトラブルは多いということですね。引き続き来月号ではスクリューのスリップの話を中心にお話し差し上げます。