やはりメンテナンスの基本は
バッテリーです
まず電気系の基本となるバッテリーのメンテナンスについてです。これは基本的には自動車のバ
ッテリーのメンテナンスと変わりありません。メンテナンスフリーとなっているタイプのもの以外はバッ
テリー液が許容範囲内にあることを時々確認しましょう。懐中電灯などで脇から照らしてあげればい
ちいちキャップを開けて確かめなくても大丈夫です。もし液面が低ければ補水しますが、このとき補
充する水はカーショップなどで売っている蒸留水を使ってくださいね。くれぐれも水道水などを入れ
ないように。水道水には塩素が入っていますのでバッテリーを痛めます。またバッテリー液は希硫
酸ですので手に付いたり周りにこぼしたりした場合などは十分な水道水で洗い流してください。希
硫酸はそれ自体ではあまりひどい反応性は示しませんが、水分が蒸発するにつれて濃縮され濃硫
酸になり色々なものに穴をあけたり腐食させたりしますので「これくらいならいいだろう」という油断は
禁物です。バッテリーについてその他気つけなくてはならないのはターミナルの腐食でしょうか?
時々外して清掃、グリスアップして腐食しないよう注意しましょう。
通常バッテリーは艇の奥深くに置かれ、なかなか点検できないケースが多いのですが出来るだ
けこまめに見てあげましょうね。「どうもバッテリーが弱くなった」と久方ぶりに見てみるとバッテリー液
が減っている。慌てて補水したら冗談抜きで何liter!も入ったなんていうツワモノモいました。
バッテリーの充電を忘れずに
さて、少し前に冬ごもりの準備をお届けしたときにバッテリーは自然放電してしまうために定期的
に充電しないとだめだという話をしましたが、充電をせずこの春初めて掛けようとしたときはきっとう
まく掛からなくなっていたりすると思います。この時マリーナを出港時にブースターケーブル等で無
理に掛けて出てもトラブルの元です。つまり信頼性のないバッテリーではだめだということですね。
こういうのを補充しようとボートにつけているのをよく見かけるソーラーチャージャーなども、使って
減った分など充電なんて出来ないと思った方が良いです。せいぜい自然放電分を補う程度でしょう。
なぜならまずその公称出力を出せるケースが極限られているからです。ソーラーパネルの出力が
2Aであればその実力は大体1/4くらいに思ってください。何故ならこの2Aというのは最高の条件
の時太陽光に直角に設置した時に得られるものです。いつでも太陽の方へ向けているなんてでき
っこないですし、表面も汚れるでしょう。また盗難防止のため室内にでも置こうものならその効率な
ど推して知るべしというものです。晴れた夏場でも1/2位です。ですので、あまり過大に期待して投
資してもがっかりなんて事が無い様にして下さい。それよりは良い充電器を買って(それでも大きな
ソーラーパネルよりずっと安価です)時々バッテリーを充電してあげましょう。その方がずっと良いと
思います。(大きなソーラーパネルを付ける時は必ずレギュレーター付きのものを選んでください。
そうしないとバッテリーを痛めます。)
またバッテリーは早め早めの交換がお進めです。定期的に補充電しても、少しでも弱くなったと
思ったら思い切って交換してしまった方が良いかと思います。それほど高価なものではないですし
少しの出費で海上でのバッテリートラブルが無くなると思えば・・・。たとえ予備バッテリーを積んでい
るからとしても、日常の点検をしておかないといざという時役立たずという事も有り得ますから。予備
として積んでおくならブースターパックのように十分な信頼性があるものを選びましょう。
筆者はボートのバッテリーは長くても3年が交換の目安だと思っています。船の場合はサンデー
ドライバーの車以上に条件が悪いですからね。
あとオルタネーターは運転中にバッテリーが外されると、ダメになってしまうケースがありますから、
運転中はバッテリーを外さないようにしましょう。もちろんメインスイッチを切ってしまっても同じ事で
す。これなどはバッテリーを外しても大丈夫なようにZap-Stopというような素子が売っています。これ
を付ければ大丈夫です。
電線は十分な太さを
電力の観点から十分に許容できると判断できれば電子・電気機器の設置はオーナーさんの腕
次第と言うことになります。筆者なども色々な艇を見せて頂いてその艤装に「フ?ムこれは便利だ」
とうならされることも少なくありません。ここで電子・電気機器を設置する際の注意点として幾つか述
べておきます。
まずその配線ですが必ず十分な太さの電線を使うこと。電気電子機器はどんな電線でもただ線
を繋げば良いと言うものではありません。水道を例に取ってみましょう。同じタンクから水道管を引
いても細い水道管からは少ししか水が出ません。一方太い水道管からは沢山の水が出ます。この
水の量が電気で言う電流に相当するんです。つまり大電流を消費するウインドラス等を設置する時、
その配線を十分太くしてやらないと、たとえバッテリーが十分の電気を貯えていたとしても電線の抵
抗が大きく、十分な電流を流せなくなります。そうするとせっかくのウインドラスの性能を生かしきれ
ないばかりか、電線が発熱して火災などを引き起こす危険性があります。「私はちゃんとヒューズを
入れているから大丈夫だ」なんて言うのは通用しません。成る程配電盤から出る個々の配線にヒュ
ーズを付けたとしましょう。立派なものです。今後もそれを心がけてください。でもその配電盤へ行
っている電線は十分な容量がありますか?そうです。配電盤から出て行く個々の線の消費電流が
5Aだとしてもそれが10個あれば配電盤に流れる電流は50Aなのです。十分に注意してください。
一般的に電線がどのくらいの電流を流せるかというらは、その断面積によって決ります。平方ミリメ
ートルとかゲージとかの単位で呼ばれます。よくメカさんが「2スケ」を使っているから・・・なんて言う
のを聞きますが、これは2スクエアミリメートル(平方ミリメートル)の電線を使っていると言うことです。
どのくらいの電線を使って良いものか分からない時は使用する電流を調べてお店の方に聞いた方
が無難かと思います。また電線自身にも抵抗がありますから同じ電線でも長くするほど流せる電流
が減ってきます。電線は十分の太さがあるものを出来るだけ短く使うのが原則です。
コネクターは電路のウィークポイント
もう一つ電線で注意しなくてはならないものとして接続部分があります。この接続部分と言うのは
多かれ少なかれ抵抗があるのが普通ですが、さてどのくらいの抵抗まで許されるのでしょうか?皆
さんのボートの中で最も電気を食うものと言ったら恐らくスターターでしょう。このスターターの定格
を2500Wとすると消費電流は200A強、内部抵抗は0.06オーム以下とその内部抵抗は非常に小
さいのです。ですから電線の接合部分に「ほんの少し」でも抵抗があると「動かない」と言う事になり
ます。電球などの消費電流が小さいものは少しくらいの抵抗は関係無いですが、スターターの様に
消費電流が大きいものの接点は要注意です。船舶免許を取る時、機関の点検で「バッテリーターミ
ナルよ?し」って実際にターミナルに触って復唱しますよね?あれにはちゃんと理由があるのです。
ターミナルが緩んで手で動くくらいになるとかなりのロスがあります。スターターにとってはそのロス
が無視できない抵抗となるのです。接触抵抗が0.1オームあったらスターターは回りませんよ。
また一見ちゃんと付いていそうに見える電線でもコネクター部分が腐食してしまって、被覆を剥
いでみると繋がっているのは真ん中の方だけだったなんて事もあります。当然かなりのロスになりま
す。こういうのはなかなか発見しづらいですね。電流を食う機器の調子が上手くない時はバッテリー
から順番にターミナルとか電線とかを触ってください。医者の触診と同じです。そういう部分はほの
かに熱を持っていたりします。こういった部分はある日突然断線しますから厄介です。
配線関係の中でも最も条件が厳しいのはビルジの中へ行っている配線でしょうか? 特にビル
ジポンプの配線と機能はチェックした方がよいでしょう。ボートにとってビルジポンプは命の綱です
からね。筆者もある日始業点検をしていたところ、ふとビルジが多いことに気が付きました。いつも
ですとフロートスイッチが当然入っている水位なのです。「これはバッテリーか?」と思いましたが前
の週までの状況を考えると考えにくい。フロートスイッチかと思いビルジの中に潜り込んで、配線や
スイッチ等を動かしてみるとおもむろにビルジポンプが動き出しました。「ありゃ?これはスイッチが
だめになったか?」と思っていると、すぐ目の上にあるコネクター部分から「ジジジジジ」っと音がす
るではないですか?そのまましばらく見守るうちに白煙が上がり始めました!そしてそのまま見る見
るうち焼ききれて残った配線はパチャンと音を立ててビルジの中に落ちたのです。これは長い間の
腐食でコネクターの接触が不良となりビルジポンプを起動できなかったものが、あちこち触るうちに
接触が戻りビルジポンプが動き出したのですが、その不十分な接触ではビルジポンプが必要とす
る十分な電流を流すことができず、熱を持ち焼き切れてしまったのです。これを取って返せば消費
する電流を十分に許容できる電線を使わなければ危険だということを示しています。また元々は十
分な太さがあったとしても、長期間の腐食などで問題が出ることもあるということを示しています。
筆者が経験したもうひとつのトラブルはクルージングの途中にトリムタブが動かなくなってしまった
ことです。トリムタブのポンプも同じく船底にあり条件的には厳しいものがあるのですが、この場合帰
港してから船底に潜り込んで見てみると、ビルジポンプへ行っている配線のコネクターのピンが腐
食で折れていたのです。これも典型的な老朽化による現象ですね。
その他海で使われるボート特有なのですが、海水が掛かった部分に塩が析出して端子間にソル
トブリッジを形成してしまうものがあります。このソルトブリッジを作るとこれを通じてショートしたり漏電
したりします。最初は「機器がうまく動かない」とか「新品なのにどうもバッテリーが弱る」などの兆候
なのでなかなか分からないのですが、これもある日突然重症化しますのでやっかいです。またエン
ジン周りの配線は、常に熱や振動に曝されていますので、擦れて摩耗し被覆がだめになりショート
することもあります。
このように船齢がいった艇ではある時期、電装系を一度徹底的にチェックしたほうが良いかと思
います。一箇所でこのような兆候があれば他の個所も同じなのです。トラブルが起こるその都度対
応していると、そのうちモグラ叩きのように年がら年中追いまくられることになります。もちろん筆者も
あちこち更新したのは言うまでもありません。
ボートの配線のコツ
さてご自分で電装系の艤装をしようとする場合、「ボートの配線がどうなっているのかよく分からな
くて手が出せない」という声をよく聞きます。これはもう慣れるより慣れろなのですが、一番の早道は
メーカーのサービスマニュアルを見るのが一番早いと思います。ただそうは言ってもなかなか見る
機会はありませんよね。ですので、ここで配線をする上で基本的な事項を述べておきます。
これは自動車も同様なのですがほとんど全てのボートはマイナスアースとなっています。自動車
と唯一違うところはボートの場合は船体がFRPで導電性がないためマイナス側の配線が必要だと
いうことです。このアース側の配線はコンソール内等機器がまとまった単位で一つにまとめられてい
ることが多いので比較的見つけ易いです。ここで消費電力の小さい機器を設置する場合はこういっ
た配線に友締めして利用しても良いのですが、ある程度の電流を消費する機器の場合は配線を共
用してはいけません。なぜならこういった配線は、元々の機器が消費する電流に合わせてその容
量設計がなされていますから余分な機器を一緒に抱かせてしまうと容量オーバーして電線が熱を
持ったり、ヒューズが飛んだりするからです。ですから万一配線を共用するとしても航行に大切な機
器に抱かせるのはあまり感心しません。万一ヒューズが飛んだりした際に増設した機器だけではな
くてその大切な機器も共倒れになってしまうからです。こういったリスクを回避するという意味からも、
できる限り自分で配電盤やメインスイッチから直接引いてきたほうがよいでしょう。もしメインスイッチ
がないボートでバッテリーから直接取る場合は万一のスイッチの切り忘れによるバッテリー上がりに
は十分に注意しないといけません。もちろんいずれの方法にしても必ずヒューズを入れることだけ
は忘れないでくださいね。ヒューズがない配線がショートすると瞬時にして火が走り際の場合は恐ろ
しい船火事を引き起こしたりしますから。 実際に電気関係のトラブルから40feetの新艇が洋上で全
焼した事故は記憶に新しいところです。
各機器の消費電流を知っておくと
いろいろと便利
前回もちょっとお話しましたが、自分でいろいろと艤装した場合、できれば一度ボートに搭載さ
れている各機器がどのくらいの電気を消費するかを調べて置くと良いと思います。そうすればどの
位の電気を使えるかということが分かりますから。バッテリーの容量とコンディションを知り、各機器
の消費電流を知ればどの程度まで使えるか自身を持って言えますからね。
また前回同じエンジンでもオルタネーターの容量に大小が有ると言いましたが、ことオルタネータ
ーに関しては大きければ良いというものではありません。車のカタログ等でネットとグロスというのを
聞いた事があるかと思いますが、オルタネーターやポンプなどを駆動するには思いのほかエンジン
のパワーが食われます。最近のマリンエンジンはプロペラ軸出力で表記されていますので、こうい
ったオルタネーターの違いによる損失は含まれていますが、船内外機で大出力オルタネーターに
換装しようとする場合はその分エンジンパワーが食われるという事を考慮してください。必要がない
のに、またはたとえ必要があったとしてもむやみやたらに大きいオルタネーターを付けるのはお金
を捨てているようなものですから。
以上3回に渡って愛艇の電気設計と電気にまつわるトラブルについて述べてきました。本当はま
だまだ沢山あるのですが紙面の都合でこの辺りで筆を置きます。また機会があれば改めて取り上
げてみたいと思います。今回の記事を理解すれば電気系はもう怖くありません。是非分からない部
分は繰り返し読んでみてください。
次回はプロペラ周りにまつわるトラブルについてお話し差し上げます。