今回は前回に引き続きバッテリートラブルのお話しです。前回まででバッテリーの基本的特性やオルタネーターの働きについておわかりいただけたかと思います。それを踏まえた上で、具体的なバッテリートラブルと愛艇の電気設計についてお届けします。
エンジンさえ動いていれば
充電されている?
電気設計とは何か?それは電気の収支決算をマイナスにしない様に設計することです。最近は色々な電子機器が安価になり、小型パッケージボートなどにもGPSや魚探など広く普及してきています。またシーバスブームにより夜間の釣行やエレキを装備したボートも増えてきました。また通常の家電製品を使いたいということでインバーターなど設置なさっている方も多いかと思います。しかしちょっと待ってください。便利だから欲しいからという安易な発想でこれらの機器を増やしていくとバッテリートラブルの元です。
まずボートの電源としてバッテリーをお使いになるということは異論が無いと思います。またこのバッテリーに充電するのはオルタネーターだということもおわかりいただけたかと思います。そしてこのオルタネーターを回すのはエンジンであり、エンジンが回っていなければ充電できないというのも当然のことです。何をわかりきったことをグタグタ言っているのかとお叱りを受けるかもしれませんが、もう少し我慢してお付き合いください。
ではエンジンが回っていればバッテリーは充電されているか?YESとお答えになった方は是非ともこのトピックスの続きを読んでください。Noとお答えになった方はこのトピックスは必要ありません。あなたは電気の事を十分におわかりになっています。
電気設計はバランスが大事
さて、ではYESという答えがなぜ駄目かということをお話します。前回も少しお話しましたが、自動車を含むボート等の充電系はフロー充電です。ですのでオルタネーターが電気を生み出していてもその電気がバッテリーに流れるかどうかというのは、その時のオルタネーターの出力と電力負荷によって変わってきます。例えばオルタネーターが50Aの電気を発生している時に、30Aの電気を使っていると差し引き20Aがバッテリーに流れ得ます。つまりこの状態ならバッテリーを最大20Aで充電する事が可能なのです。しかしこの時に50Aの電気を使っていたとしたらどうなるでしょう?そうです。バッテリーは全く充電されないのです。もし60A使ってしまったとしたら、オルタネーターはフル回転しているにもかかわらずバッテリーから電気が流れ出ているのです!
ここまでくればおわかりですよね?つまりバッテリーが正しく充電されるかどうかというのは、どのくらいの発電量に対してどのくらいの消費量があるかということのバランスが関係するのです。ですので便利だからといってむやみやたらと電子機器などを設置するとこのバランスが崩れてしまうんです。
さてでは実際にどの程度の電気使用量まで許されるのでしょうか?先ほど50Aの発電量…というような例を挙げましたが、この50Aというのは実はなかなか大きな発電量です。これをお読みになっている方は主に船外機艇にお乗りの方が多いかと思うのですが、船外機というのはオルタネーターの容量がとても小さいのです。60Hpクラスではオルタネーターの出力がせいぜい10Aちょっと、150Hpクラスでも20Aなんてのがありますので本当に注意して下さい。このクラスだと大きな電装品を積むのは無理だと思った方が良いです。ましてやアイドリングではその出力はお寒い限り。「エンジンがかかっているから大丈夫だろう」等と安易に考えて電気を使いすぎると止めたが最後掛からないなんてこともあるかもしれません。
海外の船外機メーカーの中にはオルタネーターが大きいものもあり、最新のV6クラスだと60Aのものを装備しています。これなら船内機のオルタネーターと比較しても遜色無いですね。国産のものも、ちょっと前のものは概してオルタネーター容量が小さいですが、最近のものは電装品が増える傾向にあるので徐々に容量アップが図られてきているようです。船内外機は元々55?60Aクラスのオルタネーターが付いていますし、より大きなオルタネーターにも換装が可能ですから許容範囲は広いですね。
ここで注意しておきたい事があるのですが、もしオルタネーターの容量不足を補うつもりで大きなバッテリーを使ったとしても、発電容量を上回る電気を使えばいくら大きいバッテリーを積んでいたっていつかは空っぽになってしまいます。つまりむやみに大きいバッテリーは高くて重いだけでの邪魔物なのです。ですので「大きいバッテリー積んでるから大丈夫だろう」と言うのは間違いなのです。もちろん大きなバッテリーを積んでいれば「破局」を迎えるまでの時間は「多少」は長くなるかもしれませんが、それでも正に「時間の問題」なのです。この点を良く理解なさってください。
ということで船外機艇では電装品の設置はほどほどに。もしどうしても欲しい場合は消費電力の少ないものを選びましょう。
では次にボート上で使う電子・電気機器で電気を食う代表的なものを挙げておきます。
大喰らいの代表選手権
まずはエレキ。最近流行のシーバスハンティング等の時に積極的にストラクチャー回りを攻めるのには必需品ですがとても電気を食います。推力にもよりますが40ポンドクラスだと優に30A程度は消費します。これではとても船外機のオルタネーターでは賄いきれないでしょう。湖でバスフィッシングをしている方々は専用のディープサイクルバッテリーを持込んで自宅で充電してます。そのくらいの注意を払いたいものです。最近日産からこのエレキを応用したオートスパンカーなるものが発売されていて、とても好評のようですが、このオートスパンカーには専用のバッテリーを積んでいて特別な高性能アイソレーターでメインバッテリーと接続されています。エンジンスタート用のバッテリーを過放電してしまう危険性を無くすための工夫ですね。このオートスパンカーに関しては「船外機によっては余剰電力が少ないため取り付けにあたっては良く注意して」と設計者から直接話しを聞いたことがあります。これなどは船外機の発電量を明確に物語っている例でしょう。
次がアンカーウインドラス(ウインチ)。深場でのアンカーの上げ下ろしが多い釣り愛好家なら是非欲しいという方は多いはず。しかしあれも非常に電気を食います。容量にもよりますが一般的な小型普及タイプでも軽荷で30A、重荷重になると瞬間的には100A近くの電流を消費します。深場からですと数分間に渡って使うこともしばしば。アンカー上げたはいいけどエンジンが掛からないということのないように必ずエンジンを掛けてからウインドラスを使ってください。またウインドラスだけで巻き上げると過負荷でトラブルの元です。この点勘違いをなさっている方が多いですがウインドラスは単に抜錨した後、海底からアンカーを引き上げるためだけのものです。
その次はライト類とインバーターです。夜間の釣行ではライトが必需品。だからといって灯けすぎると問題です。よく使われるのは55w程度のライト。これを2基点ければ、約10Aです。これも過度に灯けすぎれば問題です。自動車でもアイドリング状態ではヘッドライトとフォグランプを灯ければ電気の収支はマイナスです。船外機では電力の絶対量が少ないですから余計に気を付けなくてはなりません。
インバーターも電気食い虫の代表格。300w程度の小さなインバーターでも効率を入れると30A近くの電流を消費します。最近雑誌の広告に良く出ている1500wクラスのインバーターになると130Aも消費しますので大変なものです。キャッチコピーに乗せられて電気の供給源の事を忘れたら悲劇ですので注意してください。電子レンジでしたらごく短時間ですから何とかなるかもしれませんが、それでも船外機には酷でしょう。蛇足ながら付け加えるとたしかにインバーターは便利ですが、エアコンのように連続して大電流を必要とする機器を運転するのは不向きですからご注意を。ただインバータの良いところは音がしないことです。(重量は専用のバッテリーを設けたりすると結構な重量になります)ジェネレーターを持っている艇でもインバーターを積んでいて、夜間等は騒音防止のためインバーターを使うなんていう使い方をしていらっしゃる方もいます。ただこの場合もエアコンは無理ですが…。まぁ筆者にとっては夢の様な話しではありますが。
あと注意しなくてはならないのが魚探。沖合いでアンカリングしたまま魚探を点けっぱなしにすると結構食います。特に出力の大きいものは注意してください。またGPSなども含めてブラウン管式のものは電気を食いますので船外機艇では出来れば液晶タイプの方をお勧めします。
愛艇の発電量を知ると
背筋が寒くなる事も…
愛艇の電気設計とは、要は自分の艇の発電量を知り、それを上回らない様に注意すると言うことが必要なのです。よく己を知り敵を知れば・・・というではないですか。まさに真理です。
でもここで自艇の発電量を知り・・・とありますが一体どうやって知るんだ?という疑問を持たれると思います。実はこれがなかなか難しいのです。まず出来ればエンジンメーカーに問い合わせて自分が使っているエンジンのオルタネーターの定格出力と各回転数における出力曲線を問い合わせてみましょう。メーカーによって対応はまちまちですが、親切なメーカーでは細かく教えてくれます。これが分かれば許容範囲はおのずと分かってきます。一例として、良く使われているY社の175Hpの船外機ではMAX5000回転で20A、常用する4000回転で15?17A、2000回転で7?8A、アイドリングでは僅か2?3A程度です。ですから結論とすると余分なおもちゃはだめ!です。
でもこれが分からない場合はどうしたら良いでしょう?ある程度以上の船内外機では電圧計とかアンメーターとかが付いていておおよその傾向は分かりますが、船外機艇ではこういったメーター類は付いていないのが普通です。ではどうしたら良いのでしょうか?もし周りにいる方がクランプメーターを持っていればそれを借りるのが一番確実です。このクランプメーターと言うのは電流によって生じた磁界を測るメーターで、測定器の輪っかに電線を通すだけです。普通電流計は回路に直列に入れなくてはならないのに比べて大変手軽です。もっとも直流電流の測れるクランプメーターはあまりないのですが・・・。
メーカーにも聞けない、メーターなんかもないというのでしたら経験則からいきましょう。つまり余分なものは付けない。付けるんだったらフェイルセイフの精神で万一のバッテリートラブルに対処できるようにするしかないでしょう。例えば予備のバッテリーを積んでおく、電気を使う時は必ずエンジンを掛けておき止めない等々・・・。この様に愛艇の電気設計は入念に。
バランスがとれているかいないかは
ボートの使い方にもよります
さて、ではちゃんと電気設計して余計なものは付けていないのにどうもバッテリーがヘタって困ると言う方はいらっしゃいませんか?そんな方はご自分の艇の使い方を振り返ってみてください。たしかにバッテリーはエンジンが動いていれば充電されます。しかしここで大切なのはどの位充電されたかと言う事なのです。マリーナから釣り場までほんの10分、少し走ってはアンカーを降ろし、またちょっと移動して…という様なチョイ乗りを繰り返していれば当然消費した電力を補充電しきれなくてバッテリーは弱る一方です。これなど典型的な電力収支のアンバランスによるへたりでしょう。充電する時間が短ければどんなに大きなバッテリーを付けていたとしてもいつかは空っぽになってしまいます。
船外機艇では、走行中はあまり電気は使わないといってもエンジン自身が消費する分もありますし、GPS・魚探等をつけていればフルに充電に回せるという事はありません。ですので20A使ったとするとこれを充電するためには、1時間以上回さないと満充電にならないという事もままあります。釣り場がすぐという夢の様なシチュエーションは・・・実はバッテリーにとっては厳しいものだったのです。
以上愛艇の電気設計を中心に述べてきました。ボートを快適にしようといろいろな電装品を付けるのは結構ですが、やはりものには限度と言うものがあります。100Vを使用したい場合なども、ある程度以上の負荷になる場合はインバーターに負担させるのではなくてジェネレーターを積むべきだと言う指針が有りますので専門家によく相談しましょう。これなども文字どおりバランス設計なのです。
最後にもう一度繰返しますがバッテリートラブルは総て船長責任です。バッテリートラブルを起こしたら恥じと思ってください。
次回はバッテリーのメンテナンスや、電気配線にまつわるトラブルについてお話し差し上げます。