巷にはクリスマスソングが聞かれ日一日と寒くなっていきますね。夏の間足繁く通ったマリーナからも遠のいている今日このごろ。ボート遊びは来春までお休みと冬山を思い浮かべている方も多いでしょう。しかしちょっと待ってください。冬山に向かう前に夏の間酷使した愛艇の手入れをお忘れなく。機械だから放っておいても大丈夫じゃないのか?というのは大間違い。ちょっとした手入れをすることにより来春の目覚めが全然違ってきます。
シーズン中お世話になった
愛艇に感謝を込めて
今回はしばらくお休みするボートの手入れについてです。シーズン中は遊ぶのに何かと忙しくてなかなか細かいところまで手を入れている時間がありませんよね。ですからせめてシーズン終わりの手入れの時くらい感謝の気持ちを持って手入れをしてあげましょう。さらにここにご紹介するちょっとしたメンテナンスをするだけで愛艇の寿命を伸ばし、また来春乗り始めの時に余計なトラブルを起こさないで済みます。
まずは内外装とも良く洗って
汚れを落とそう
まず最初に手を付けるのは掃除です。デッキの隅の方にコマセのカスとか、エンジン回りにグリスとかがこびりついていたりしませんか?それではせっかくの愛艇も可哀相。普段はなかなかじっくり手を入れる時間も無いですが、この時くらいは隅々まで奇麗にしてあげましょう。特にグリスなどの油汚れは放っておくと落ちなくなってしまいます。内外ともボートソープで十分汚れを落とし、出来たらワックスを掛けてあげられると良いですね。こうすることによってFRPの艶も保てますしシートのくすみもなくなります。
またこうやって内外装を隅々まで見ることによって、問題となるようなヒビや欠け等の要修理個所を発見できるのです。こういったヒビや欠けはだんだんと大きくなりますから放置しておくと補修するのも大変。小さいうちに早目々々に補修するのが鉄則です。
この掃除に関する筆者の失敗談として今でもビールが思い出に残っています。そりゃ筆者は大のビール好きですが何故にビールかというと・・・最近のビールはほとんど生ビールですよね?生ビールと言うのは酵母菌が生きてます。この生ビールをちょっとカーペットの上にこぼしていたのでしょう。面倒くさくてろくすっぽ洗わないで放置しておいて久しぶりに見てみると・・・なんとカーペット一面に酵母菌が繁殖しているではないですか!怖気を震ったというかなんと言うかともかく後始末が大変でした。それ以来隅々まで洗うようになったのは言うまでもありません。笑。
同様にキャビンのクッション類など湿ったままで放っておくとカビの元ですから、十分に乾燥させてから仕舞ってくださいね。
やはりボートはエンジンが命です
掃除が終ったら次にエンジン回りの手入れです。係留保管しているか陸置保管しているかで多少違いますが、まずエンジンオイルとドライブオイルを交換しましょう。もちろんこれは通常シーズン中にもやらねばならないメンテナンスですが、なぜ「今」やるかというと、オイルの性状を見ればエンジンやドライブの健康診断が出来るからなんです。良くあるケースですがドライブオイルに水が混入した状態で放置すると冬季に水分が凍結してハウジングを割ったり大切なギアが錆びたりします。シーズンオフ時に交換することによってこういったトラブルを未然に防ぐことが出来ます。エンジンにしても劣化したオイルで一冬越させるのは可哀相ですから入れ替えてあげましょう。もちろんオイルフィルターなどのフィルター類の交換も忘れずに。
次に燃料です。「乗らないのに何故燃料を?」と思われるでしょうが、長期間乗らない場合は燃料満タンが基本です。以前もお話差し上げたように燃料は常に膨張したり収縮したりして「息」をしています。そのためタンクに空間が沢山あると空気中の水分が凝縮する面積が広くなってかなりの水滴が付くのです。長期間放置しておくとこの水が馬鹿になりません。ですので冬ごもり時以外にも「乗った後は満タンに」というのを心がけてください。またガソリンは生き物です。時間経過とともに揮発分が蒸発してどんどんオクタン価が下がりますので、エンジンメーカーは長期保存する際はスタビライザーやトリートメントを添加するように指導していますが、現実にはなかなかそこまでは出来ません。筆者も一時はやりましたが最近はサボりがち・・・。それで特に具合が悪くなったことはありませんがせめて満タンだけは心がけてください。また船内外機艇の様な外から見えないカートリッジ式の燃料フィルターの場合は交換を船外機艇やディーゼル艇にお乗りの方は透明な燃料フィルターの清掃も忘れずに。
続いてキャブレターの手入れです。先月号でも言いましたが、キャブレターは繊細な構造をしていますので放っておくとトラブルを起こし勝ちです。特に2ストロークエンジンの場合はオイルが混ざっていますから、キャブレターに燃料が残った状態ではフロート弁が固着したりスプレーバーが詰まったりします。キャブレターから燃料を抜く方法はドレンボルトを緩めて直接排出させたり、燃料ホースを外した状態でエンジンを掛けて自然に止まるまで放置します。そして最後にドライスタートとならない様にエアインテークからオイルを入れクランキングし、シリンダーをオイルでコーティングしてあげましょう。こうする事で来春エンジンを掛ける時にピストンリングを欠いてしまったりするトラブルを未然に防げます。筆者は以前からボートは乗って壊すより乗らなさすぎて壊す事の方が多いと言っていますが、このドライスタートというのもそのひとつです。エンジンは適切に潤滑しないとすぐに摩耗したり焼きついたりするというのはご存知だと思いますが、では通常の使用状況でエンジンが一番摩耗するのはいつだと思いますか?それは意外な事にエンジンを掛ける時なんです。なぜなら潤滑剤たるオイルが全く無い状態で金属同士が擦れあうからです。間をおかずに乗るのであれば前回動かした時のオイルが隅々まで残っているので問題ありませんが、1ヵ月経ち2ヵ月経ちと放っておくとオイルがみんな落ちてしまい、摺動面にオイルが無い状態になってしまうのです。当然半年も放っておけば油っ気なしで動かす事になります。これがドライスタートというものです。摩耗が進み長い目で見た時寿命が短くなりますし、ひどい場合はピストンリングを欠いてしまったりします。これを防ぐためにキャブレターからオイルを入れてシリンダーをコーティングしてやるのです。これは同時に格納中のピストンやシリンダーの錆を防いでくれます。
寒い地方では水抜きを忘れずに
さてここまで来ればもう少し。次は冷却系の手入れです。皆さんのボートを置いて置く場所にも関係しているのですが、寒い地方の場合は水が凍結してしまいますので冷却系の水抜きが必須です。エンジン左右にあるドレンボルトを外してエンジン内部の水を抜いて、更にあちこちの冷却水ホースを一旦外して水を抜きましょう。これを怠ると冬の間に凍結して鉄の固まりの様なエンジンですら割れてしまうのです。筆者も山中湖に置いてあったボートの水抜きが不十分でエキゾーストマニホールドを割ってしまった経験があります。この時は新艇で買って初めての越冬だったのです。エンジンのドレンボルトは外したのでエンジン本体は無事だったのですが、ホースを外しての水抜きが不十分だったので割れてしまったようです。翌春水に浮かべて気持ち良く走っていると何やらエンジンルームより白い煙が出る・・・。「すわっ何事!?」と開けてみると湯気がモクモクと立っているではありませんか!下をのぞき込んでみるとエキゾーストマニホールドの根元の部分にヒビが入って水が漏れていました。色々手を尽くして埋めようとしましたが結局交換する羽目になりました。この時は「高くついたなぁ?」としょんぼりしていたのですが、後で「内側に割れてエンジンに水が入らなかっただけ運が良かった」と言う事を聞き不幸中の幸いと胸をなで下ろしたのを思い出します。寒い地方の方はくれぐれも注意してくださいね。また間接冷却の方は清水系の不凍液を交換するのを忘れずに。不凍液は系の汚れを落とし腐食を防ぐ成分も入っていますので年に一度くらいは交換しましょう。
潤滑はボートを労る基本です
続いて潤滑です。人間の間接は油を差さなくて放っておいても大丈夫ですが機械はそうはいきません。特に船外機や船内外機は重いユニットを上下左右に動かすために回転軸があちこちにあります。回転軸があるという事はグリスニップルがついているという事で、=グリスアップしてやらないと駄目だと言う事です。このためにもグリスガンは一つ持っていると良いと思います。本当はサービスマニュアルにある潤滑部の指定に従うのが筋ですが、それがなくとも「差す必要があるところは差せる様になっている」この精神であちこち探してみましょう。
これ以外にちょっと見た目に気が付かないのですが、潤滑を忘れてはならないところが3個所あります。1つめは船外機やスターンドライブのステアリングチューブです。特に船外機の場合は海水が直接かかる部分に露出しているので、いわゆる「塩噛み」しやすいですから忘れずにグリスアップしてください。これを忘れると翌春ステアリングがびくともしないという悲劇に見舞われるのです。これ結構ありますから経験なさったことがある方も多いかと思います。よく注意してくださいね。
次に潤滑を忘れてはならないのがプロペラシャフトです。ここはシーズン中にも定期的にグリスアップしてやらなければいけない場所ですが、冬ごもりの時も忘れずにグリスアップしましょう。これを怠るとスクリューがプロペラシャフトに固着してしまい、いざ交換しようとした時にどうしても抜けず、スクリューを切り刻んで無理矢理剥ぎ取るという荒療治をしないといけなくなってしまいます。特にデュオプロをお使いの方は御用心を。
もう一個所は船内外機艇だけなのですが、ドライブシャフトがエンジンに接続されているカップリングの部分です。あまり知られていませんが、この部分はエンジン側がアルミで出来ていますので潤滑を忘れると擦り減ってしまい、いつの日か航行不能の憂き目に遭うのです。注油し難い部分ですが是非潜り込んでみてください。筆者のボートも7年目にしてこのカップリングが減ってしまい立ち往生したことがあります。もっともこの艇はカップリングにグリスニップルが付いておらず注そうにも注しようがなかったのです・・・と言い訳を・・・。もちろん修理する時にニップル付きのカップリングにしたのは言うまでもありません。
こういった外回りのグリスアップ終ったら、次に各種プーリーが錆付かない様に軽く潤滑スプレーを吹いておいてあげましょう。ちゃんと規定のテンションを保てばこの程度でベルトが滑ることはありません。それよりプーリーが錆びてベルトを傷める方が心配です。そしてできれば冬季保管中にベルトに変な癖が付かない様にテンションを緩めておいてやるとなお良いでしょう。またクラッチやスロットルリンケージなどの潤滑もお忘れなく。
こうして各部をグリスアップした後、湿気の入らない様にキャブとスクリューにビニールをかけてふさいであげれば完璧です。
さて、いよいよ最後のバッテリー。ご存知の様にバッテリーは放置すると自己放電してしまいますから月に一度くらい充電してあげるのが基本です。寒冷地では放電してしまったバッテリーは凍結して割れることもありますし、たとえ凍結しなくても放電したまま放置すると元の性能を取り戻せなくなりますから放電しっぱなしで放置するというのは避けたいものです。ですから自宅に持ちかえり時々充電してあげると共にバッテリー液なども補充してあげましょう。また係留保管している場合はバッテリーは命の綱のビルジポンプを動かす大切なものです。長期間に渡って放置することなく時々は見て回りましょう。バッテリーは消耗品ですので、できれば古くなって容量が減ってしまったバッテリーは交換するといいですね。バッテリーに関しては次回で詳しくお伝えします。
雨仕舞いはしっかりと
甘く見ると大変な事にも
いよいよ冬ごもりも大詰めです。格納中ゴミや雨などが吹き込まない様に、しっかりとカバーを固縛しましょう。余談ですが、筆者はパイプ車庫の中に保管してあったのでこのボートカバーの固縛を緩くしておいたら、冬の間に猫が入り込んでしまってひどい目に遭ったことがあります。また大雪でつぶれてウインドシールドなどがペッチャンコになったという苦い経験もあります。まぁこの時は高校の体育館がつぶれてしまうほどの豪雪でしたから諦めがつくというものですが、しっかりと保管中であっても油断してはいけないという見本みたいなものです。
特に洋艇のオープンボートなどでセルフベーリングになっていない艇を係留保管している方は、カバーはそれこそ命綱ですから厳重に固縛してください。カバーが飛んでしまいあえなく沈する艇をよく見かけます。また国産艇にお乗りの方でも油断は大敵。ベーリングホールが落ち葉などのゴミでふさがってしまうと同じ事ですからやはり注意してください。また係留保管の場合は長期間放置することなく時々は舫ロープの具合だとかをチェックしに行きましょうね。
最後にドライブ船の場合は陸置、係留とも出来るだけドライブを下げてあるのを確認しておしまいです。このドライブ回りのトラブルに関してはまた改めてお届けしますね。
以上いろいろと述べてきましたが、これだけやっておけば愛艇もきっと満足してくれるはず。きっといつまでも元気で働いてくれることでしょう。もちろん来春の目覚めが良いのは請け合いです。是非やってみてください。
次回から2回に分けてバッテリートラブルと愛艇の電気設計についてお届けします。