沖合いでアンカリングしてさあエンジンを掛けようとしたが掛からない・・・。本当にドキドキしますよね。桟橋でしたら修理を依頼するだけで済む事ですが、時と場合によっては命懸けです。エンジンは問題がなければ必ず動きます。言い換えれば、エンジンが動かない時は必ず何か原因があるのです。今回はエンジンが掛かるためにはどういう条件が必要なのか見てみましょう。
エンジンが掛かるための
3つの条件とは?
今回はエンジンが掛からなくなってしまった時のお話をお届けします。一口にエンジンが掛からないといっても実に様々な原因が挙げられます。ガソリンエンジンを例にとってみれば燃料系や電気系等様々な原因が考えられ、ここではそのうち代表的なものを取り上げてみましょう。その内容に関してはガソリン船外機も船内外機もほとんど同じです。ディーゼルエンジンに関しては多少違いますが、それはまた改めてご紹介さしあげますね。
まずはガソリンエンジンの基本的動作原理をおさらいしてみましょう。ガソリンエンジンは2スト4ストともキャブレターから吸い込まれた混合気を圧縮しプラグから出るスパークで点火し燃焼させて動きます。
ですのでガソリンエンジンが動くためには
1.適切な回転 → スターターモーターやバッテリー、ソレノイド等
2.適切な点火 → 点火プラグやコイル、ハイテンションコード等
3.適切な混合気 → 燃料ポンプや燃料フィルター、キャブレター、燃料タンク等
と冷却系を除くほとんどすべての部分が関わりを持っていることがわかります。つまりエンジンが掛かるためにはエンジンについているほとんどすべての部分が正常に働かないと動かないということを覚えておいてください。言い換えればエンジンに余分な部分なんて付いているわけありませんから、すべての物が正常に働かないとだめというのは自明の理でしょう。カプラー一つ、燃料ホースのバンド一つ緩んでいてもだめです。
まずエンジンが回らなければ
お話しになりません
では各項目別に順を追ってご紹介差し上げましょう。まず1番の適切な回転です。エンジンを掛けるためにはエンジンをクランキング(エンジンを回してやること)させなくてはなりません。ごく小型の船外機を除いてはスターターモーターで回します。これは自動車でもお馴染みですからご存知ですよね。バッテリーのスイッチを入れて(付いていない場合もあります)ニュートラルを確認してセルモーター回す。ここで勢い良く回れば第一段階はクリアーです。でもセルを回してもうんともすんとも言わない…。焦りますよね。原因は以下の様にいろいろ考えられます。
・ メインスイッチが入っていない
・ バッテリーが上がっている
・ ニュートラルセーフティースイッチの不良
・ 電気配線の断線やカプラーの接触不良
・ サーキットブレーカーが落ちている
・ スターターの不良
・ エンジン内部のトラブル
メインスイッチの入れ忘れ位でしたらご愛敬ですが、案外多いのがバッテリーの過放電です。ルームライトやスモールランプの消し忘れなど自動車でも良くやりますよね?
ボートの場合は自動車以上にバッテリーを放電してしまう可能性が高いです。過放電してしまったものはもうどうしようもありません。運良く桟橋でしたらバッテリーを交換するか充電すれば(一度上げてしまったバッテリーは容量が著しく減少するので筆者は交換することをお勧めします)良いですが、洋上でなった場合は処置無しです。どんなに腕の良いサービスマンでも自力では如何ともする術がありません。救助を待つしかないですね。このバッテリー周りのトラブルや愛艇の電気設計に関してはまた回を改めて詳しくお届けします。
ニュートラルセーフティースイッチについてですがこれはエンジンのリモコンレバーがニュートラルになっていないとセルが回らなくなるような安全装置です。オートマ車もニュートラルかパーキングじゃないとセルが回らないでしょ?あれと同じです。長年使っていくうちにこの接触が悪くなってセルが回らなくなることが良くあります。これを確認するためにはリモコンレバーをガチャガチャ小刻みに前後に動かしたり、リモコンレバーの裏側のスイッチへ行っている配線をショートしてみてください。もしもの時のために事前に一度スイッチのありかを確かめておくと良いでしょう。(船外機の場合は付いていないケースや見えにくいケースもあります)
次の配線の断線やカプラーの接触不良ですが、まずスターター回路がどうなっているかを見てみましょう。バッテリーのプラス端子から太いハーネスがメインスイッチへ行き、そこからスターターソレノイド(リレー)のプラス端子に入ります。このプラス端子に共締めで、やや太い線が出ていてサーキットブレーカー経由でメーターパネルや種々のアクセサリー類へ行っています。スタータースイッチ(キー)はこのアクセサリー類に繋がっていて、キーをセル位置まで回すとこのプラスの電気がスターターソレノイドの駆動端子に掛かります。その結果ソレノイドが作動しスターターが動くという仕組みです。(この間に前出のニュートラルセーフティースイッチが入っています)ですのでバッテリーが元気なのにキーをひねってもセルが回らない時はこの間の配線を見てみましょう。キーまでプラスの電気が来ているか?キーをひねるとスターターの方に電気が行くか?この辺りを配線を追って見てみましょう。特に良くトラブルを起こすのはキーのすぐ周辺とエンジンに入っている辺りです。この配線が不良かどうかは、バッテリーのプラス端子からソレノイドに入っている端子とソレノイドの駆動端子をドライバーやペンチでショートさせてあげるだけで分かります。スターターが回れば原因は配線のどこかにあります。ただこれをやるときはエンジンの回転部分に触れないように特に注意してくださいね
次のスターターの不良ですが長年使っていくとどうしても痛んできます。特に海では使用条件が厳しいですから錆びなどから往々にしてスターターが駄目になってしまうことがあります。プラス端子を付けてもソレノイドがカチカチ言わない、カチカチ言うがスターターが回らない…なんていう症状があればスターターの不良が考えられます。(もちろんバッテリーが元気だとしての話しですが)この場合も予備のスターターがない限りちょっと洋上での修理は困難です。
エンジン内部のトラブルとしては排気管から水が逆流してしまってシリンダーに入りどうにもこうにも動かなくなってしまったり、コンロッドが折れたりというトラブルがあります。もっとも確率としては低いので助かりますけどね。これらのトラブルの場合は通常専門家でないと対処は難しいと思います。
以上が適切な回転にまつわるトラブルの代表例です。
火花が飛ばなくてはせっかくの
燃料も燃えようがない
次に2番目の適切な点火です。ガソリンエンジンはこの電気系がウィークポイント。メーカーも毎年改良に努めてちょっと前に比べるとずいぶん良くなってきましたがそれでも弱い事には変わりません。いろいろな装置が組み合わされエンジンの回転にあわせてプラグから火花を飛ばしてシリンダー内の混合気に点火しています。この経路のどれか一つでも具合が悪いとすぐさまエンジン不調となってしまいます。本当に極端な話しプラグキャップが1本緩んでいるだけで不調になるのですよ。
電気系のトラブル原因は以下の様にいろいろ考えられます。
・ プラグキャップのゆるみ
・ プラグの不良
・ ハイテンションコードの断線/不良
・ コイルの不良/焼損
・ ディストリビューターの不良(船内外機の場合)
プラグキャップはハイテンションコードの先に付いているL字型のキャップでプラグの頭にすっぽり被せられています。ゴムの被覆がプラグをしっかりホールドして抜けない様になっていますが、時としてこれが緩んでプラグの発火不良を引き起こしたりします。またハイテンションコードがプラグキャップへ差し込まれている部分はタイラップで締め付けているだけなので(ハイテンションコードとプラグキャップは繋がっていません)、プラグキャップを外す時にコードを引っ張ると接触不良の原因となります。
次にプラグの不良ですが、焼け、被り、焼損等々使い方などによってプラグは駄目になります。またこれは4ストではあまり頻繁にある事ではないのですが、プラグがパンクしてしまって動かなくなる事があります。シリンダーから外してスパークを見ると一見なんでもなくちゃんと火花が飛んでいるのですが、シリンダーに付けると上手く飛ばないといった厄介な現象があります。これはシリンダーの中の使用条件が厳しいためで、大気中ではなんでもなくとも、高圧縮の条件下ではリークしたりするからです。他が全部正常でどうしても掛からない時は疑ってみてください。プラグは修理できませんから交換する事になります。交換する時は全気筒一度に換えるようにしてください。後顧に憂いを残さないためです。
コイルの不良はなかなか判断が難しいのですが、船外機の場合はプラグを外してアースしてクランキングしてスパークが飛ぶかで判断してください。ディストリビューターを持っている船内外機ではディストリビューターの不良と区別するためにプラグではなくてディストリビューターの真ん中に繋がっているコードを外してアースしてテストしてください。この際高電圧が掛かりますからくれぐれも感電しない様に注意してくださいね。
ディストリビューターは、最近のものはポイントレスになっているのでほとんど故障する事はないのですが、古い型のコンタクトブレーカーとコンデンサーを使っているタイプのものは時々コンタクトブレーカーの焼けやコンデンサーのパンクというトラブルがあります。これは船外機と同じ様にプラグを外してスパークが飛んでいるかで判断します。
ただこういった電気系部分は最近はパッケージ化され一応のメンテフリーとなっていますのである程度の信頼性はあるという反面、洋上での応急修理はほとんど不可能という恨みがあります。常日頃点検して錆や端子の緩みなどを見て防錆スプレーを吹いておいてやる等の手入れをしてあげましょう。
以上が適切な点火にまつわるトラブルの代表例です。
燃料が来なければ
動かないのは当然
最後に適切な混合気です。前回までのお話で燃料の経路についてご理解いただけましたね。燃料は様々な経路を通ってキャブレターへ送られますが、まずこの経路のどこかに詰まりがある場合は絶対に掛かりません。また逆にどこかが漏れていたとしてもポンプがエアーを吸ってやはり燃料が上手く行きません。エンジンはガソリンで動くもの。ガソリンが来なければお手上げです。
次にキャブレターについてみてみましょう。混合気が燃焼するためにはガソリンと空気を適当な割合で混合しなくてはなりません。ガソリンが濃すぎても薄すぎてもいけません。これを空燃比といいます。この適当な空燃比をもつ混合気を作る装置がキャブレターなのです。このような目的のためキャブレターは非常に繊細な構造をしており、ほんの僅かな調整で調子が狂ったりしますので何かあっても慣れるまでは手を出さない方が無難です。よほど高地の湖にでも持込まない限りキャブレターのセッティング自体を変更しなくてはならないと言う事はほとんどありません。
ここで冬ごもり明けなど長期間ボートを放置した後掛からないというのは、往々にしてこのキャブレターのトラブルであることが多いのです。ガソリンは色々な成分の混合体であり、また揮発性が高いため長期間放置するとキャブレター内部で揮発分がだけ蒸発してしまいオイルとかガソリンの残留分がガムの様に残ってメインジェットを詰まらせたりフロート弁を固着させたりといろいろとトラブルを起こします。こういった場合はオーバーホールに出すしかないと思います。これを防ぐためにはシーズンオフの時はキャブレターのガソリンを抜いて、潤滑スプレーなどを吹いておいてください。特に補機では使用間隔が長いため良くある現象です。
もし燃料が来なくてエンジンが掛からないことがはっきりしている場合はキャブレターのインテークから直接ガソリン(2ストの場合は混合燃料)を吹き込んで始動してみてください。ガソリンの代わりにスターティングフルード等の専用スプレーを使っても手軽です。これらをインテークから入れてスタートさせエンジンが掛かれば問題が燃料系のどこかにある事は間違いありません。この場合は後は燃料の経路を順を追って確かめていくだけです。問題が軽症の場合こうやって始動の手助けをすると息を吹き返すことがあります。ただこの作業をする時は燃料を入れすぎるオーバーチョークに注意してくださいね。エンジンは燃料が少なすぎても多すぎても回らないですし、かえって入れすぎて掛からなくなった場合は燃料がなくて掛からない場合より厄介ですから。
以上が適切な混合気にまつわるトラブルの代表例です。
どこが悪いかを確かめるためには
一つ一つ理詰めでチェックする
今ここでご紹介した3つのポイントはチェックする順番でもあります。つまりエンジンが掛からない場合、1、2、3の順で点検してあげれば良いということです。機械は原因が無ければ絶対に動きます。逆に言うと原因があれば絶対動きません。その原因究明はロジカルに順を追って見つけていくの一言に尽きます。よくベテランで症状を見ただけでピタリと当てる方がいらっしゃいますがそういう方は色々な症状を体験して、上記の様な理路整然としたトラブルシューティングのロジックが頭に入っていて、一瞬にしてその解にたどり着くのです。決して当てずっぽうでやっているわけではありません。仮説を立てて一つ一つ検証していく。それに尽きます。みなさんも是非苦手だとおっしゃらないでご自分のエンジンと付き合ってあげてください。きっと自信が付いていくと思います。
次回はシーズンオフを迎える準備についてお話差し上げます。