エンジントラブルと一口に言ってもその原因は実に様々です。でもどういった部分がトラブルを起こしやすいか、またどういう扱いをすればトラブルを起こすのかを知っていれば面倒なトラブルを事前に回避する事も可能です。また原因が分かれば、仮にトラブルを起こしてしまっても適切な対処が出来るというものです。今回は最も良くお目にかかるそんなトラブル事例を見てみます。
トラブルを起こす原因は実に様々
今回は実際のフィールドで起こるエンジントラブルについてお届けします。前回までのお話で、エンジンのトラブルといってもエンジン本体に発生するトラブルよりそれ以外の補機類に関するトラブルが多いという事を述べてきました。ここでは各系統別にどのような故障が発生するか具体的にご紹介したいと思います。
今回は主としてガソリンエンジンについて述べますが、前にも言いましたがこういった補機類に関してはディーゼルエンジンもそれほど大きな違いはありません。すべてに共通すると思っていただいて結構です。
やはり一番トラブルを
起こすのは冷却系です
まず冷却系を採り上げてみましょう。現在のマリンエンジンの冷却システムはほぼ共通です。船外機と一部のスターンドライブではロアーユニット内に、その他はエンジン脇にベルト駆動の冷却水ポンプを持っています。そのポンプの中にあるのはゴム製のインペラと呼ばれる水車です。このインペラは常に曲げストレスが掛かっていますしゴム製ですのでメーカーは一年毎に交換する事と定めています。しかしほとんどの人が交換なさっていないのが実状でしょう。まぁ大切に使ってあげれば数年は問題なく使えますが、吸水口へのビニール等の吸い込み、座礁して泥を吸い込んでしまったりすると新品でもあっという間に坊主になってしまう事もあります。またあまり知られていないのですがこのインペラはドライ運転には極端に弱いので水が回っていない状態では決してエンジンを掛けてはいけません。すぐ駄目にしてしまいます。陸上でスターターを回す時は必ず水洗アタッチメントを付けて冷却水ポンプに水を回しておいてください。陸置している方は要注意です。特にシーズン初めに動かす時は完全に乾燥していますから絶対に禁物です。良く覚えておいてください。(ボートが水に浮かんだ状態では常にこのインペラは水に浸かった状態です)
では具体的に航行中はどの様な感じなのでしょうか?通常正常な航行状態では水温計は常に一定の値を示します。水温が高い時期に大勢乗って気持ち良く飛ばしている時でも水温計の針が普段と大きく上回る事はめったにありません。ここで覚えておいて頂きたいのは普段の正常な水温を知らなければ異常を発見する事は出来ないという事です。航行中は車と違ってメーター類にも常に注意を払う事を忘れないでください。メーターのない船外機艇では船外機の検水口から出る水の量につねに注意を払っておいてください。
ここで航行中に冷却水取り入れ口にビニール等が巻き付くと水温が見る見るうちに上がっていきます。最近のドライブではセカンダリーインテークを備えていてメインが詰まってしまってもすぐさまオーバーヒートを起こさないような工夫をしているものも多いですが、それでも水温は上昇します。もしセカンダリーインテークがなければ、水温はそれこそ数分のうちに危険なほど上昇してしまいます。これに気づかず航行しているとオーバーヒートを起こしワーニングブザーやランプが付いているものではけたたましくブザーが鳴り、付いていないものでは安全装置が働きエンジンの回転が下がったりします。この状態でも原因が分からずに逡巡していると、熱のためインペラが融けてしまったり、エンジン自体が過熱して、付着していた油分から煙を上げる事があります。完全なオーバーヒートですね。船外機では検水口から激しく湯気を噴き出し、船内機ではエンジンハッチを開けるとむっとした熱気とともに煙が上がってきます。こうなってしまうと焼き付かないまでもインペラは駄目になり、エンジンオイルは劣化してしまってその場では走れなくなってしまいます。それでもまだエンジンを止める処置をしないと数十秒のうちに無気味な音とともにエンジンが焼き付いて止まります。こうなっては大損害です。
こうならないためにも常に水温計に注視している必要があるのです。水温が通常より高くなったらすぐに停船して吸水口を調べてやれば何と言う事はありません。でも発見が遅れてインペラを傷めてしまえば、巻き付いたビニールを取り除いたとしても最早水温は思うようには下がりません。こうなっては自力航行は無理ですので救助を求める事になります。冷却水ポンプがベルトで駆動されている場合はこのベルトが緩んだり切れたりすると同様の症状が現れます。でもこれは出港前点検でわかりますから、それを怠ったとすれば怠慢のそしりは免れないでしょう。またこういったタイプのポンプでは洋上でのインペラの交換が可能です。もっともそれが出来る人はインペラなんて壊さないというのが私の持論ですが…。
ともかく都会で航行している人はビニールを引っかける事故が後を絶ちませんのでよく注意して航行してくださいね。また船内外機でベルト駆動の冷却水ポンプをお使いの方はベルトのテンションや摩耗のチェック、プーリーの錆には注意してください。あまり乗らない方が要注意です。錆々のプーリーで走ると新品のベルトでもすぐに伸びたり切れたりしますから。
冷却系統で次に問題になるのが使用後の水洗不良によるウォータージャケットの塩詰まりです。前回もちょっと触れましたが塩詰まりというまのは、海水域で乗っていられて帰港時にエンジン内部を水洗しないで放置していると、ウォータージャケットに塩分が結晶になって析出し、冷却水の通り道を詰まらせてしまう現象です。これは動脈硬化の様に徐々に進行する症状ですが、一部分だけ詰まるという厄介な性質があるため、水温計や検水口からの水は正常範囲でも、エンジンの一部分だけ水が回らずにオーバーヒートしたり焼き付いたりしますので厄介です。こういったトラブルには水温計も検水口も無力ですのでこれはもう予防措置しか対処のしようがありません。面倒くさい様ですが海水域で乗っている方は帰港後毎回清水でエンジン内部をフラッシングしてあげなくてはならないのです。ただ夏でも冬でも関係なしに毎週乗っていれば塩が析出する時間がないですから、水洗する必要なんかないですね。ボートは乗らなければかえって痛むこともあるという見本です。毎日の様に海に出る職業漁師さんは水洗なんてしませんし、もちろん塩詰まりとも無縁です。座礁したりして砂を吸い込んでも同様な症状が発生します。
また使用後の水洗を怠ると特に直接冷却の船内外機に多いのですが、塩詰まり以外にもサーモスタットおよびサーモスタットハウジングの腐食やサーキュレーションポンプの腐食によるオーバーヒート等を引き起こすことがあります。これなどはなかなか原因が分からず解決までに時間が掛かることが多いです。
燃料系のトラブルの半分は人災
注意を怠っては駄目
次は燃料系です。前回も言いましたが一番問題になるのは水の混入でしょう。水の混入を防ぐには、給油時に給油口から水が入らない様に注意したりジュリ缶の底に水が溜まったりしてないかを確認してください。またマリーナのスタンド形式の給油施設で給油する時は大丈夫かと思いますが、ドラム缶で給油を受けた時が要注意です。特に余りはやっていないところで給油してもらう時は注意しましょう。(=長期野外保存がされていたようなドラム缶ということです)できればフィルター付きの漏斗等を介して給油できれば安心なのですが・・・。でもなかなか出来ませんよね。ですから見知らぬところで給油する時は色々聞いて給油実績のあるスタンドを選びましょう。また乗った後常に燃料タンクを満タンにしておくのも忘れずに。燃料は常に膨張したり収縮したりして「息」をしています。そのためタンクに空間が沢山あると空気中の水分が凝縮する面積が広くなってかなりの水滴が付くのです。ガソリン船内外機艇の様な外から見えないカートリッジ式の燃料フィルターの艇にお乗りの方は、もったいないなどと思わずに定期的に交換してください。船外機艇やディーゼル艇にお乗りの方は透明なボールの中に水が溜まってないか良くチェックしてくださいね。
また携行缶を使った船外機艇ではタンクの錆にも注意しないといけません。もったいないなどと思っていつまでも使っているとトラブルの元です。底に錆が出てきたら思い切って交換してあげましょう。その他としては燃料ホースの劣化による亀裂等からエアを吸ったりしてしまうケースがありますがそれほど多くはないかな?初心者にありがちなトラブルとして携行缶のエア抜きを開けるのを忘れてのエンストというのがあります。これは燃料を消費するにしたがってタンク内が低圧になり燃料を「吸えない」という事になるのです。この場合スクイズポンプを握ってやると最初は調子良く走るのですが、しばらくするとだんだんと回転が下がってきてやがてエンストするという結構ドキドキする止まり方をします。タンクが満タンでもガス欠なんて泣くに泣けないですよね。エア抜きを開けるのを習慣にしてください。ここで今も記憶に残る携行缶にまつわる筆者の失敗談をご紹介しましょう。ボートに乗り始めてまだ間も無い頃、携行缶と燃料ホースをセットして勇んで出かけたら5分もしないうちに上記症状が出る!慌てて確認するとちゃんとエア抜きは開けてある・・・。おかしいと思ってカバーを開けてみるとフィルターが空っぽで燃料が来てない。スクイズポンプを握ると当然フニャフニャ。必死に握って燃料を送りエンジンを掛けるとブルルンと息を吹き返して走れるのですがまた3分もしないうちに止まる・・・。「これは燃料ポンプが故障したか?!」とポンプを必死に握々しながら逃げ帰った事があります。桟橋でああでもないこうでもないと散々調べた挙げ句見つけたのは・・・なんと燃料ホースが逆さにセットしていたんですね。本来エンジン側にセットしなくてはならない側が携行缶の方にセットされていたのです。スクイズポンプは一方通行でちゃんと矢印書いてあるのに気が付かなかったんです。普段エンジン側は外すことなんてなかったのですがこの日たまたま新しいホースに交換して、その時にうっかり逆さまにセットしてしまったのが真相のようです。こんな単純なミスから一時はどうなることかと冷や汗を流し、慌てて救助を呼ばなくて良かったなとほっと胸をなで下ろしたのを懐かしく思い出します。でもこんなのはメーカーさんが前後逆さまに接続できない様にするのが人間工学的に正しいと思うのですが。人間はミスを犯しやすい動物ですからね。笑。
また脱線してしまいました。もう一つ燃料系いで注意していただきたいのがキャブレターの詰まりというものがあります。シーズンオフの冬ごもりの時、キャブレターの中のガソリンを抜いておいてあげないと、ガソリンの揮発分が蒸発してオイルとかガソリンの残留分がガムの様に残ってしまいメインジェットを詰まらせたりフロート弁を固着させたりといろいろとトラブルを起こします。シーズンオフの時はキャブレターのガソリンを抜いておいてください。またこの症状は補機に出る事が多いのです。なぜかというと補機は使ったら後はどこかへ搭載してほうりっぱなしというケースが多く、このキャブレター周りのトラブルが発生しやすいのです。いざという時に役に立たない補機なんて役に立ちません。ですので補機を使ったら帰港後必ず水洗してあげて、ついでに燃料ホースを外してキャブレターのガソリンを使いきっておいてください。そうすれば安心です。
最近は大分信頼性が
上がりましたが・・・
最後に電気系です。ガソリンエンジンはこの電気系が命。弱い弱いというのもこの電気系ある故です。では一体どうしたら良いのかという事になると電気系はなかなか難しいところがあります。基本的に船外機の電気系統はパッケージ化され一応のメンテナンスフリーとなっていますのでかなりの信頼性はあるという反面、洋上での応急修理はほとんど不可能という恨みがあります。せいぜいプラグの点検とハイテンションコード、プラグキャップなどの点検をするくらいです。ここで注意なんですがプラグを外される時は絶対に新品のスペアのプラグを持っていて下さい。もし手元にないなら外さない方が賢明です。プラグを外す時、時としてプラグがポキッと折れてしまう事があるんです。点検しようとして外したら折れてしまい、立ち往生なんていうのじゃ洒落になりません。また船外機の場合はうっかり取り落とすと海の中ですから、くれぐれもスペアが無い場合は外さないようにしてください。
船内外機の場合はコイルがコンタクトブレーカー式の場合はコンデンサーのパンクやコンタクトの焼けと言うトラブルが時々あります。これも定期的に交換しておけば防げるんですが、予備パーツを持つと共に、交換・調整の仕方は覚えておいた方が良いかと思います。それ以外は船外機と同じであまり洋上で対応する余地は多くありません。せいぜい水を被らないようにするとか錆びないように帰港後オイルを吹いておいてあげるくらいですね。ここで吹き付けるオイルですが一般的によく出ている5?56等ではなく、マリン用の6?66という製品がありますのでそちらをお使いください。6?66は水の下に潜り込んで潤滑してくれますのでマリン用には最適です。
電気系のその他のトラブルとしてはバッテリーとオルタネーターです。オルタネーターは信頼性が高く、普通はエンジンの寿命より長いくらい持ちますが塩水を被ったりすると極端に寿命が短くなる事があります。またエンジンが動いている時にメインスイッチを切ったりバッテリーを外したりすると一瞬のうちにレギュレーターが焼損しますので、くれぐれもエンジン運転中はメインスイッチを切らない様にしてください。
その他スターターも水に浸かると錆が来ますので、マリン用だからといって塩水をかけるのは禁物です。よく注意してください。できれば年に一度くらい外して点検とグリスアップがしてあげると良いかと思います。
バッテリートラブルは補水や過放電を避けるといった程度ですか。古くなったり弱くなったりしたと思ったら思い切って交換してしまった方が良いでしょう。バッテリーが無ければどうしようもないですから十分に注意してください。
まだまだ色々なトラブルがありますが
また改めて
その他に考えられるエンジントラブルとしては、プロペラに釣り糸を巻き付けてしまいプロペラシャフトに付いているオイルシールを切ってしまいドライブオイルが抜けたことによりベアリングを焼き付かせてしまうというのが多いです。これは定期的にプロペラを外して点検するとともにグリスアップもしてあげるとなお一層可です。一部のスターンドライブドライブに使われているドライブオイルのリザーバーはこの種のトラブルを未然に防いでくれます。リザーバーの無いタイプや船外機では釣り糸を巻かないように十分注意しましょう。これらバッテリーやプロペラ、ドライブ周りの事についてはまた回を改めてご紹介したいと思います。
いずれにせよマリン用のエンジンは車とは比較にならないくらいの悪条件で運転されていますから自動車と同じ感覚で「メンテナンスフリー」と言う訳にはいきません。トラブルに巡り合うのはある程度宿命のようなところもあるようです。是非皆さんも「メカは苦手だ」とおっしゃらないで愛艇のエンジンをチェックしてみてください。
また少しでもエンジン不調を感じたら出港を取りやめたり目的地を変更して避航したりという勇気が必要です。「これくらいなら大丈夫だろう?」という素人判断は禁物です。楽しいボーティングは愛艇に対する信頼あってこそというのを忘れないでください。「やめる勇気」大切にしてくださいね。
次回はエンジンが掛からない原因についてのお話をお届けします。