エンジンは言うまでもなくボートの命。楽しいボーティングは愛艇に対する信頼あってこそという事を忘れないでください。しかし車に比べて酷使されるボートのエンジンはとかくトラブルを起こしがち。今月号から3回に分けてそんなエンジントラブルに関する事をお届けします。まず今回はエンジンの基本的な構成と、そしてどういった部分が壊れやすいかについて見てみます。そして楽しいボートライフを送る上で、ボートやマリーナと付き合っていくコツなどについてお届けします。
楽しいボートライフは愛艇に対する
絶対の信頼があってこそ
きらきらと陽光を受けて光る大海原。力強く唸りを上げるエンジン。水飛沫を上げて駆け回るっていうのはほんとうに楽しいですよね。でもそんな楽しいクルージングもひとたびエンジン不調になってしまうと心細い限りです。
まずエンジントラブルの事を理解するためには、どうしてもエンジン自身の事を理解しなくてはいけません。そのため今回はちょっと技術っぽくなってしまいますが、エンジンがどの様な構造をしているか、またどの様な部分がトラブルを起こしやすいかについて見てみましょう。来月号から実際にフィールドで起こるトラブルとその対応についてお届けします。
エンジンの形式の違いによる
故障の差はない?
最初にボートに使われるエンジンの種類を見てみましょう。ほとんどの場合小型の国産ボートに使われているのは船外機です。そして中型以上になると輸入ボートではガソリン船内外機が、国産ボートではディーゼル船内外機が使われているケースが多くなるかと思います。ここでは代表的なこの3つのパワーユニットについて採り上げてみましょう。
まずガソリン船外機は2ストローク機関(最近はかなり4ストロークも出回ってきましたが)、船内外機はガソリン、ディーゼルとも4ストローク機関です。更にガソリンエンジンは火花点火の内燃機関、ディーゼルエンジンはは火花点火が必要ない圧縮点火の内燃機関です。ですのでコイルやディストリビューター、点火プラグ等の点火系はガソリンエンジンにしかありません。これがガソリン機関とディーゼル機関の一番大きな違いです。2ストロークエンジンはバルブ機構を持たず、吸気・圧縮行程と燃焼・排気行程の2行程(クランクシャフト1回転で)で1サイクル、4ストロークはバルブを持ち吸気・圧縮・燃焼・排気行程がそれぞれ独立して4行程(クランクシャフト2回転で)で1サイクルとなります。
なんだかこう書くと難しそうで、もう頭が痛くなってしまったかもしれませんが、多少の違いこそあれ、実はこういったエンジン形式の違いによるトラブルというのはほとんどありません。これが関係してくるようなトラブルはかなり重大なトラブルであり、通常の使用においてほとんど考慮する必要はないのです。ですのでこれらの事はボートに乗る上で、一般常識程度に理解している程度で十分かと思います。実際に発生するトラブルはこういったエンジンその物の構造の違いよりも電気系、冷却系、燃料系などの各エンジン形式に共通な構成部分によるものが多いのです。そのため、ここではこういった各部分がどのような働きをしているか見てみましょう。
故障しやすいのは
補機類なのです
まず電気系です。この中の点火系は往々にしてガソリンエンジンのウィークポイントとなります。点火系はコイル、ディストリビューター、ハイテンションコード、プラグなどから構成され、エンジンの回転にあわせてプラグから火花を飛ばしてシリンダー内の混合気に点火します。ガソリンエンジンは正しいタイミングで適切な火花が飛ばなければ決して動きません。極端な話しプラグキャップが1本緩んでいるだけで不調になるのです。最近の船外機ではディストリビューターが無く、気筒数分だけコイルを持ちセンサーで電気的に点火タイミングを調整するようになっており、機械的消耗が無くかつコンパクトにまとまっています。しかしボートの場合周りはすべて電気の大敵の水、しかも海水という状態ですので、電気系にとってははなはだ過酷な環境と言わざるをえません。昔と比べて飛躍的に信頼性は向上したとはいえ、以前と変わらずボートの電気系は水との戦いと言えます。
またよく「ディーゼルは電気系が無くて丈夫だし、いったん掛かってしまえば後は電気なんて無くても大丈夫さ!」という方がいらっしゃいますが、それはもう昔の話しです。最新のディーゼルはコンピューター制御ですから電気なしでは動きません。また航海計器やその他電気を必要とする機器なしで走ると言う事はほとんど無くなってきましたから、電気の重要性はガソリンでもディーゼルでも変わらないのです。かえってディーゼルの方が始動に要する電力が大きいため、バッテリーなどに対する要求はよりシビアとなっています。
この他の電気系には電力を供給するオルタネーターやその電気の貯蔵所たるバッテリー、エンジンをスタートさせるセルモーターなどの補機類があります。
次は冷却系です。エンジンは燃料を燃やしていますので動いているときは当然熱が発生します。そのためエンジンが正常に動きつづけるためには、この熱を適切に除去してやる必要があります。この役割をするのが冷却系なのです。冷却の方法には空冷式と水冷式がありますが、ボートではなにしろ周りに水がふんだんにありますから、キャナルボートや軍用などのほんの少数の例外を除いてすべて水冷式が用いられています。その方法は船外機なのか船内外機なのか?直接冷却なのか間接冷却なのかによって多少違いますが、ここではまずその冷却のメカニズムを見てみましょう。
まず船外機のロアーユニット内部にあるゴムのインペラ式の冷却水ポンプによって、ロアケースの下方にある冷却水取り入れ口から海水が吸い込まれます。そのままエンジン内部に送り込まれ、エンジン各部を冷やした後エンジンブロックから出て、サーモスタットを通って、温度によってそのまま出るかエンジン内部に戻るかしています。ここで熱を奪った海水はエンジンの排気口を冷やしながら排気ガス中に噴射され、排気ガスとともにプロペラのスルーハブから出ます。その際水流の一部はバイパスされエンジン後部の検水口から出てエンジン内部に冷却水が流れているかどうか目視点検できるようになっています。
船内外機の場合はドライブ内部かエンジン脇にあるベルト駆動の冷却水ポンプによって吸上げられ、直接冷却式では更にサーキュレーションポンプを通ってエンジン内部に送り込まれ、間接冷却式ではヒートエクスチェンジャー(熱交換器)に送られます。そしてこのヒートエクスチェンジャーによって冷やされた清水がサーキュレーションポンプによってエンジン内部に送り込まれます。エンジン各部を冷やした後はサーモスタットを通って、温度によってそのまま出るかエンジン内部に戻るかしています。その後熱を奪った海水は直接冷却式、間接冷却式ともエンジンのエキゾーストマニホールドやエルボー(排気系の構成部品の名称)を冷やしながら排気ガス中に噴射され排気ガスとともにプロペラのスルーハブから出ます。
エンジンは正しく冷却されなければすぐにオーバーヒートを起こし、エンジンが焼きついたり最悪の場合火災を引き起こす事だってあります。冷却に関するトラブルの原因としては、吸水口へのビニール等の吸い込み、使用後の水洗不良によるウォータージャケットの塩詰まり、サーモスタットの故障、インペラの破損、サーキュレーションポンプやサーモスタットハウジング、エキゾーストエルボーの腐食、冷却水ポンプの駆動ベルトの損傷等さまざまな要因があります。
次は燃料系です。ガソリンエンジンにしろディーゼルエンジンにしろエンジンは燃料を燃焼させて(決して“爆発”させてではありません)はじめて動きます。当然の事ながら正しく燃焼できないとエンジンは動かないわけです。では正しい燃焼とはなんでしょう?正しい燃焼とは適切な燃料が適切なタイミングに適切な量供給されて初めて実現します。ガソリンエンジンでは、これに正しいタイミングでのスパークプラグからの点火というファクターが加わります。まずは燃料系の道筋を追ってみましょう。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは大きく異なりますがまずはガソリンエンジンです。
余程小型の船外機を除いて燃料はエンジンから離れた燃料タンクに入れられます。ここからエンジンが回転したときに生まれるクランクケースの圧力の脈動を利用するダイヤフラム式の燃料ポンプによってよって吸出され、燃料フィルターを通ってキャブレターに導かれます。船外機ではこの燃料パイプはフレキシブルなゴムで出来ていて途中にゴムまりのようなスクイズポンプが付いています。携行缶を使用している場合など最初はこのポンプを握って燃料を送ってやらないとエンジンが上手く燃料を吸ってくれません。
ディーゼルエンジンの場合は、このキャブレターの代わりに、各シリンダーに直接高圧の燃料を噴射する燃料噴射ポンプを備えています。最新の2ストローク船外機も厳しい排出ガス規制をクリアーするために、各メーカーとも次々とキャブレターを廃しガソリンをシリンダーに直接噴射するメカニズムを採用しつつあります。この新しいメカニズムは地球環境に優しいだけではなくて大幅な省燃費も実現し、我々サラリーマンオーナーには嬉しい限りです。話しが脇にそれましたが、ディーゼルエンジンは燃料噴射ポンプを使っている関係上、異物の混入に敏感で、燃料系統の途中に油水分離器やさらなるフィルターを設けてあるのが普通です。また燃料系にエアーが入っていると燃料噴射ポンプが上手く動きませんのでエアー抜きをしてする必要があります。ディーゼルエンジンをお持ちになっているオーナーさんは、是非このエア抜きの技術だけはマスターしておいてください。
これら以外の場所でその他に考えられるエンジントラブルとしては、船外機ではピストンリングの欠けや吹き抜き、ドライブオイルが抜けたことによるベアリングの焼き付き、船内外機ではベルト切れ、スターターモーターの錆つき程度でしょうか?
次回こういった部分が具体的にどの様なトラブルを起こすかということに付いてお話差し上げたいと思います。
ボートやマリーナとの付き合い方
さてエンジントラブルの話しで良い機会ですから、ここで筆者が是非皆さんに知っておいてもらいたい、ボートと楽しく付き合っていく上での心構えについて述べさせてもらいます。
まずマリン用のエンジンは車とは比較にならないくらいの悪条件で運転されていますから、どうしてもトラブルは起こしがちです。ですから車と同じ感覚で壊れないのが当たり前というのは通用しません。車の場合は買ってから売るまで自分で一度もボンネットを開けないでも故障する事はめったにありませんが、ボートの場合新品のエンジンでも使い方を誤れば一瞬にして壊れてしまうのです。
それではどうやったらうまく付き合えるのか?それにはまず機械に対する最低限の知識を持つ事が必要です。そして筆者はその上で愛艇を理解をしてあげるということが必要だと思っています。ボートでは始業点検ひとつとっても、ちゃんとやらないと致命的なトラブルを発見するチャンスを逃すのです。もちろん全部自分で完璧に理解しろといっているわけではありません。そんな事が出来る人はいません。己が分かる範囲は自分でやり、わからない部分は任せる。こういった切り分けをしてくださいと言うことです。当然ビギナーは分からないことだらけでしょうからかなりの部分任せざるをえないと思います。でも任せてやってもらっているところをじっくり見ていましょう。そうすれば少しずつでも愛艇に対する理解も増え、自分で出来る範囲が広がっていくと思います。逆に何年ボートに乗っていようが向上心の無い人は乗り始めたばかりのビギナーと一緒。いえ、本人にはなまじっか自分は乗ってきたという気持ちがありますからビギナーよりタチが悪いです。こういう方は一旦何かあるとカラッきし・・・ということになります。
要は己の分かることと分からないことをはっきりさせ、自分の限界を知ることが大切なのです。諺でも「己を知り敵を知れば・・・」といいますよね?私はボート遊びにすごく良く当てはまる言葉だと思います。何もエンジントラブルだけではありません。天候が荒れている時に「この位大丈夫だろう・・・」と自分の実力の事も天候の事も知らずに出て行けば何時か負ける時が来るのです。
また上記の事も含めて、こういう世界ですからマリーナや業者とうまく付き合っていくと言う事はとても大切です。その中でも、なんでもかんでも「ボートの事はマリーナに任せてあるから・・・」なんていうのは通用しません。マリーナはボートを保管する事が業務であって、機械類のなどの手入れはまた別問題だからです。もし本当にすべてを任せるのならそれ相応のかなり高額な費用が掛かると思います。もちろんそれでも任せるという方はそうしたら良いと思います。でもたとえそうしていても最低限の事は自分でチェックしましょうね。パイロットは完璧に整備されたであろう機体でも飛行前には必ず自分の手で再度チェックしまよね?なぜならそれは自分や乗客の命が懸かっているからです。ボートだってある意味陸の上とは比べ物にならないくらい危険と隣り合わせです。命を懸けて遊んでいる・・・それくらいの気構えを持ってください。
一方金銭的にとてもそこまでは出来ないとなおざりにしながら、故障の原因を業者に押し付けるのはお門違いと言うものです。例えば一般的な冷却系の手入れで、ベルトとインペラは頼んで交換してもらっても、サーモスタットが壊れてオーバーヒートしたとしてもクレームを付けるのは筋違いですし、ベルトを交換して1年も乗らずに放っておいて錆だらけのプーリーで走ってベルトが切れてもそれは自分のせいです。何がどう悪いのかロジカルに判断し、その上で業者とお付き合いしてください。こっちが客だからといって理不尽な事を言う権利はないのです。もちろん業者がいい加減な事をやっていたら、それこそしっかり追い込みをかけましょう。それがボートやボート屋さんとうまく付き合っていくコツです。
たしかに世の中には高いこと吹っかけてくる業者もいます。いいかげんな業者もいます。でもそういう良い業者悪い業者、それを見抜くのも自分の実力なのです。良い業者を選ぶというのはとても大切なことです。筆者はいいかげんな業者の言いなりになって散々苦労した人を何人も知っています。同じボート遊びが天国となるか地獄となるかそれを決めるのもすべてあなたなのです。業者を盲信することなくじっくり吟味してみてください。もちろん逆に貴方は業者に吟味されています。お互い相手を理解した上で信頼関係を築く・・・。そうなったら素適なボートライフは約束されたようなものです。
なんだか最後はお説教じみてしまいましたね。でも私の言いたい事が分かっていただけますでしょうか?ボート遊びをする上では是非こういった心構えでいて欲しいと言う事です。来月号はエンジントラブルの実際例とその対策についてのお話をお届けします。