「備えあれば憂いなし」。昔からある諺ですがまさにボーティングにおける真理です。ある意味陸から隔絶されたボートでは、楽しいボートライフを送るためにはいろいろと準備が必要です。どんなに腕の良いメカニックでも道具がなければ如何ともする術がありません。愛艇の装備にはくれぐれも準備だけはお忘れなく。
「ボーティングには石橋を叩いて渡る慎重さを!」
皆さんこんにちは。毎日うっとうしい雨が続いていますがもうすぐ待ちに待った夏がやってきます。新しく艇を買われて進水式を待ち遠しく思っていらっしゃる方も折られるでしょうね。楽しいボートライフをお祈りしております。
さて今日は実際のトラブル事例をご紹介する前に、船長としてボートに最低限積んでおかなくてはならない備品や工具のお話しを差し上げたいと思います。
前回のお話でボート遊びをしていると色々なことが起こるということがおわかり頂けたかと思います。購入してきたばかりのボートには「走るため」の装備はあっも、「航行する」ための装備はなにも揃っていません。さてこれはどういう事でしょうか?
パッケージボート等購入してきたばかりの状態では、なるほどエンジンは付いていますし法定備品も揃っています。もしかすると気を利かせて舫いロープ位はつけてくれているかもしれませんね。ですからガソリンとオイルさえ入れれば一応は走れます。しかし待ってください、それでは船長としてあまりに無謀というものです。
もし貴方が初めて車を買ったとしたらどうするでしょうか?タイヤ交換に必要な工具とか道路地図ぐらいは揃えますよね?ボートだって同じです。いえ、ボートだからこそもっともっと慎重にならざるをえないのです。
陸と違って海には目に見える道路はありません。しかし一見何の障害も無いような海ですが、航路があったり浅瀬や暗礁があったりと様々な危険が待っています。また陸と違ってコンビニエンスストアもなければガソリンスタンドだってありません。一旦出港してしまえば帰港するまで、何があっても総てボート上で自力で対処しなくてはならないのです。
これらを十分理解できれば何も用意していないボートで出かけるのが、いかに危険なものであるかおわかり頂けるものと思います。
さて、ではどんなものを用意しておくべきか?これはいろいろありますがカテゴリー別に順を追ってみてみましょう。
「何はともあれチャートだけは用意して」
まず第一に必要なものと言えばチャートが挙げられるでしょう。チャートとは海図のことで、いわゆる海のロードマップです。先程陸と違って海には道路は無いといいました。ですからどう走ろうと自分の自由です。ただ自由に走れるという事と、どこでも走って良いという事とは別物です。一見広々とした海ですが、そこには航路があったり浅瀬や暗礁があったり魚網があったりと様々な危険が待っています。是非自分が行くであろう水域のチャートを良く見て、これらの危険な水域に近づかないようにしてください。ただ本船で使うような本式のチャートはとても大きいですから、我々のボートの上ではとても広げる余裕などありません。そんな時のために「ヨットモーターボート用参考図」というものがあります。B4版で防水加工がしてあり、多少濡れても大丈夫ですので大変重宝します。高価なものではないので、ご自分が行かれるであろう水域のものは是非揃えておいてください。
「新しいマイボート、必要最低限の備品は?」
次はボートの備品についてです。ボートの備品というとロッドホルダーや魚探を思い浮かべるかもしれませんが、そういうものはボートの安全性を損なわない限り自由にやられてください。ここで言う備品とはボートの安全航行のために必要なものです。法定備品は揃っているでしょうが、それだけでは少々心もとないです。
まずはアンカーです。一応買った時にアンカーくらいは付いているとは思いますが、是非予備アンカーを積まれることをお勧めします。アンカーは言うまでもなくボートを泊めておくものですが、いつも気持ちの良い条件の時にアンカリングできるとは限りません。万一エンジントラブルが起こった時には漂流しないようにするための命綱です。でもなぜ予備をといいますと、アンカーは時として抜けなくなってしまう事があるからなんです。特に小型ボート用として良く使われているダンフォース型の場合、岩などに引っ掛かってしまうという様なことがよく起こります。特に釣りをなさる方は根の近くにアンカーを打つ場合が多いですから、根掛かりの危険性はそれだけ高いといえるでしょう。こんな時は泣く泣くロープを切って捨錨するのですが、捨錨してしまうと帰りは錨無しです。こんな時何かあれば即漂流です。近くに岩礁地帯があってそちらの方向に流されたとしたら…。考えただけでもゾットしますよね。「自分はアンカリングしないから関係ないや」などと言わないで下さい。嘘のような話ですがバウパルピットに吊るしてあるアンカーが、荒天時ドシンドシンと波に叩かれているうちにロープが緩んで落ちてしまい、それがスクリューに絡まって航行不能になったなんてケースもあるんです。こんな場合、推進力とアンカーの2つを同時に失うという悲劇に見舞われるわけです。まぁ漂流するのも凪で風も無く天気が良くて、航路の心配も乗り上げる心配も無いような場所でしたらそれはまたそれで一興かもしれませんけれど、ちょっとでも荒れていたりすると命懸けです。プレジャーボートは推進力が無いと波や風に対してすぐに横を向いてしまいます。ボートは横からの波には弱いもの。最悪転覆なんて言うケースもあります。また座礁した時に予備のアンカーがあればとっても心強い味方になってくれます。ただいくら予備を積みなさいといっても小型のボートではアンカーを格納する場所に困るのも事実。ですので分解収納が可能なダンフォースアンカーや、折りたためるフォールディングアンカー、小型のマッシュルームアンカー等是非色々と検討なさってみてください。
次はロープです。ロープは船の上では色々と使い道があるもの。昔は積んであるロープを見れば船長の技量がわかるとすら言われたものです。これはさておき多用途に使えるロープの予備は積まれることをお勧めします。特にアンカーロープは水深の3?5倍の長さが必要です。ですから30mのロープではせいぜい10m、荒れていれば5?6mの所までしかアンカリングできないわけです。こんな時予備アンカーの分と併せてもう30mあれば大分余裕が出来ます。是非用意しておいてください。もっとも日本の沿岸では岸から500m離れただけで水深100m以上なんていう場所もありますので、そんな場所ではアンカリングするなんていうのは問題外ですね。その様な場所でボーティングなさるのでしたらできればシーアンカーを用意したいものです。ただ万一の場合はシーアンカーが無くてもバウからアンカーを付けたロープを長く繰り出しておけば多少なりとも船首を風に立ててくれますから諦めないでください。そういった用途のためにも是非予備のロープは準備しておいてください。
次はフェンダーです。フェンダーというのは日本語で防舷材の事。桟橋とか護岸に係留する際に船がぶつかって破損するのを防ぐために舷側に吊るすクッションです。桟橋設備が完備されたマリーナから出て帰るだけでしたら必要無いのですが、艇同志を繋いでのラフティングや防舷設備の無い桟橋や漁港の岸壁に係留する際には必需品です。これがなければたとえ短時間の係留といえども不可能です。ではどのくらいのサイズのフェンダーを選べば良いかというと、直径は大体艇長の1/4?1/5inchあればよいと言われています。20feetだと4?5inchですね。でもあまり小さく細いものでは役に立たないですから、出来れば大き目のものを選ばれた方がよいです。係留する条件が悪いほど大きなフェンダーが頼り甲斐があります。ただフェンダーも邪魔になりますからご自分の艇のサイズや収納場所の事をよくお考えになって決められてください。
その他に用意しておくと良いものは、ボートフック、バケツ、・・程度でしょうか?出来ればGPSはあったほうが楽です。最近は液晶で魚探も付いていて小型軽量で安価というものが出ていますから、魚探を付けられようとお考えでしたら是非GPS魚探をお付けになってはいかがでしょうか?荒れて視界が悪い時やガスった時、夜間の航行には本当に頼りになりますよ。最低でもコンパスだけは備え付けましょう。
「工具やスペアパーツがなければどうにも始まらない」
次はスペアパーツ類と工具についてです。ボートの上でスペアパーツ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、車だってスペアタイヤを積んでいるじゃないですか?やはりある程度のスペアは積んでおいたほうが良いでしょう。「といっても自分はメカに詳しくないから・・」とはなから尻込みしてはいけません。誰だって最初から分かっているわけではないのです。少しずつで良いですからエンジンに触れてみましょう。メカニックの方が触っているのを見るだけでもためになります。是非ご自分でエンジンメンテナンスにチャレンジしてみてください。これからのボートライフにとっても絶対プラスになります。
さてスペアパーツ類といっても航行中に触れない部分のパーツなど持っていたって仕方ありません。ですのでここで積んでおいた方が良いのは、スパークプラグとスクリュー、予備のエンジンオイルとフィルター位です。それに加えて出来ればブースターケーブルと予備バッテリーを積んでいると安心です。特にプラグはお忘れなく。洋上でかぶってしまいプラグを外してみようとしたところポキッと折れてしまったりします。また船外機艇では海に落としたり、船内機艇でもビルジの中に落として取れなくなってしまったりすることがあるからです。点検しようとして自分で止めを刺しては洒落になりません。それ程高価なものではありませんので是非気筒数分だけ用意しておいてください。
また工具類としては新艇で買われた時はエンジン付属である程度のものは付いていると思いますが、それだけでは少々心もとないです。ペンチ、ニッパ、プライヤー、スパナ、プラスドライバー、マイナスドライバー、ソケットレンチ、モンキー、ハンマー、ナイフ等あればずいぶん心強いです。これなどはホームセンターで売っているような「70ピースセット」なんていうセット工具でもかまいません。無いよりはずっとましです。あと万一スクリューにロープなどが絡んでしまった時のために、ロープカッターは用意しておいたほうが良いでしょう。スクリューに絡みついてしまったロープは固く締まっているため、普通のナイフやカッターナイフではなかなか切れません。こんな時歯がギザギザになった専用のナイフを使えば簡単です。出来たら長い柄が付いているものが使いやすいです。長い柄が付いていれば無理な体勢を取ることなく切ることが出来るからです。もしお近くでロープカッターが手に入らなければ金ノコでも代用できます。その他にはウェスや針金、ガムテープ、CRC6-66の様な潤滑スプレー、グリス等あると何かと重宝します。
「人に対する気配りも忘れずに」
次は人間のための備品です。人間のためって何?とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、傷の手当て等をする簡単な医療品や非常用の食料や飲料水の事です。ボートでは怪我をしてもすぐに病院に行くというわけにはいきません。水に濡れて皮膚が弱くなっている上、デッキの上は塗れて滑りやすく揺れますからから多少の用意はしておいた方が良いでしょう。フライブリッジを持つ艇ならラッタルから足を滑らせての打撲や骨折等もあるかもしれません。ロープワークにしても一歩間違えるとロープに巻かれて思わぬ怪我をする場合もあります。もちろん怪我をしないように用心するに越したことはないですが万一の際に備えたほうが良いでしょう。それ程大袈裟なものは必要ありません。カットバンや包帯・ばんそうこう、消毒薬、軟膏類、目薬等があれば十分だと思います。あと出来たら水遊びでクラゲに刺されたり毒魚に刺されたりした時のために、アンモニア水やステロイドが入った軟膏類があると重宝します。あと用意したいのは刺抜き。魚の鋭いひれやウニの刺が刺さったときにとてもありがたく思います。筆者を含めて一般的なボートライフではオフショアを長期間クルージングするなんていうことはありませんから、風邪薬や抗生物質等の飲み薬は必要ありません。日本国内でしたら寄港して医者に困ると言うことはないでしょ?
次に非常用の食料や飲料水です。何を大袈裟なといわれてしまいそうですが、海の上では水と食料は余裕を持って行くのが原則です。ちょっとしたトラブルで動けなくなった時、帰路海が荒れて時間が掛かったり、やむ得ず避航して待機している時など予定より遅れてしまうことはままあります。そんな時水や食料が無いのは辛いもの。筆者も岸からほんの100m程のところで長い間立ち往生してほんとにひもじい思いをしたことがあります。「ビールやジュースがあればいいや」と言うかもしれませんが、そういったものでは喉の渇きがおさまらないのは良く知られています。是非ミネラルウォーターやカンパンなどの非常食を用意しておくことをお勧めします。
以上いろいろ書いてきましたが、本当はもっともっといろいろと用意したいものがあります。しかし我々小型のプレジャーボートではスペースも限られていて何でも積むというわけにはいきませんし、それなりの費用も掛かります。ですのでその中で最低限必要と思われるものを挙げさせて頂きました。登山家が山へ行く時には色々な事態を想定して装備品を準備しますよね?ボートで海に出るのも同じです。私たちは海人(ウミンチュ)なんですから。ぜひ皆さんも良く考えて自分なりの備品を揃えてみてください。航海が後悔にならない様にセーフティーファーストで楽しくボートライフを満喫しましょう。
次回は座礁についてのお話をお届けします。