楽しいボーティングを台無しにする「トラブル」。まずは未然に防ぐことを第一に考
え、それでも万が一の時には適切に対処して乗り切る――一人前のキャプテンに求め
られる大切な資質です。
新しく始まるこの連載では、普通のサラリーマン・ボートオーナーだけど、一般のボ
ーターより少し経験が多い先輩ともいえるogaoga氏が、自分の経験を元にトラ
ブル対処のあれこれを綴ります。(編集部)
頼もしいキャプテンとして
トラブルに立ち向かおう
読者の皆さんこんにちは。この記事をお読みの皆さんは、現在ボートの購入を検討
中であったり、めでたくマイボートを手に入れられた方たちですよね。今はきっと期
待に胸膨らみ、素晴らしいボーティングの世界を夢見ていることでしょう。
まさにそのとおり。ボートライフはきっとあなたに今までと違った、夢の世界の扉
を開けてくれます。目的はいろいろあるでしょう。釣り、クルージング、海水浴、花
火、パーティー……どれをとっても初めての経験だと思います。私自身も皆さんと同
じくこんな素晴らしいボートライフを満喫しています。本当に夢の世界です。
皆さんは小型船舶4級の免状を手にした時から「今日から私も立派な船長だ!」と
思われていることでしょう。でもちょっと待ってください。せっかくの期待に水を差
してしまうようですが、ボートライフは楽しいことばかりではありません。船長の双
肩には、それなりの責任がかかってくるのです。
陸上のドライブと違って海には道路がありません。船長自ら目的地を決めてコース
の設定をしなくてはなりません。その際、航路や浅瀬・暗礁の有無、その日の潮汐や
潮流、万一の際の避難港の調査、給油・給水・食事の可否等も調べなくてはなりませ
ん。こういった基本的に事柄に加えて、天候の急変や急病人が出た時はどうするか?
愛艇がトラブルに見舞われた時はどうするか? といった準備も必要です。海の上
にはコンビニエンスストアもなければガソリンスタンドもありません。故障したって
もちろんJAFを呼ぶというわけにはいきません。何があっても自力で対処しなくて
はならないのです。
この連載では、こういったボーティングを楽しむ上で、船長たるものどのような準
備をしておかなくてはならないか、またどのようなトラブルに遭遇するか、というこ
とをご紹介したいと思います。
普通のボート乗りが語る
赤裸々な(?)トラブル経験
普通こういったトラブル記事はマリン業界の内部の方が書かれるのが通例ですが、
ここではごく普通のサラリーマンであり自らがボートライフを送っている筆者が、少
しだけ海の先輩として経験したことを“海のトラブルエッセイ”としてお送りします
。
筆者と海との付き合いはひも解けばかなり長く、小学校に上がる前から海苔取り漁
師に連れられて、今の羽田ビックバード界隈を闊歩しておりました。埋め立て工事が
始まる前の実にのんびりした時代です。よく「三つ子の魂百まで」と言いますが、す
っかり海好きの少年になってしまいました。
その後、大学時代にオーストラリアへ旅行に行き、ジェットスキーを体験してあら
ためてマリンスポーツの楽しさを知ってしまったんですね。この旅行から帰って来て
すぐにジェットスキーを買って、以来すっかり海の虜になってしまいました。
卒業後ごく普通のサラリーマンとして会社勤めをしながら知人の17フィートのラン
ナバウトで腕を磨き、その後20フィート、25フィートとボートを乗り継いで、最近35
フィートに乗り換えて現在に至ります。毎週のように家族とファミリークルージング
を楽しんで(巻き込んでかな?)おり、また海の仲間と楽しい交流をし、冒頭にある
ような素敵なマリンライフを送っているのです。
そんな中でホームページに体験に基づいたトラブル記を書いていたところ、たまた
ま本誌編集部の方の目にとまり、こうして皆さんに拙文を披露させていただく次第で
す。ですからこのコーナーはいわゆる海の専門家ではなく、皆さんと同じごく普通の
ボーターが書いているのです。今までの同種の記事とは視点を異にし、ユーザーの立
場から見た一味違ったコーナーノしていきたいと思いますので以後よろしくお願いし
ます。
原因、被害、対処法……
トラブルの実態はさまざま
先ほども述べましたが、海でのトラブルと一口に言っても実にいろいろなものがあ
ります。エンジンやプロペラに等に起因するメカ的トラブル、コース設定の不備や見
張り不十分・船位不確認による衝突・座礁等のトラブル、天候の急変等外的要因によ
るトラブル、怪我、溺水等の人的トラブルなど、ちょっと考えただけでもさまざまな
ケースが考えられます。
筆者も今までに流木との衝突、水漏れ、座礁、冷却パイプの破裂、スターター故障
、オルタネーター故障、チルト故障、曳航、絡網、スクリューのスリップ等々のトラ
ブルを経験してきました。あと残っているのは「沈没」だけかなというくらいです。
こう書くとなんだか無謀なボーターのようですが、これでも元来は用心深いたちなの
です。そんな筆者でも長い間海にいるといろいろな経験をするということです。
*
さて来月号より次のような内容で連載を進めていきます。
まず最初は船長として最低限積んでおかなくてはならない「備品や工具」について
。ボートは買ったからといってそのまま走れるわけではありません。いろいろ準備す
べきものがあります。次は人命に直接関わってくる可能性のある大変危険な「座礁」
。その次は洋上でこれ以上心細いものがない「エンジン不調」。さらに誰でも一度く
らい経験する「バッテリー」や「プロペラ」の故障などハード面から見たトラブル、
と続く予定です。
そのほか走錨など錨泊時のトラブル、予期しない荒天航行、突然霧に巻かれてしま
ったらどうするか、流木に衝突した時は、シーマンシップとマナー、航海計画等の運
用面から見たトラブル……こういったテーマについてどのように対処していくか、順
を追ってご紹介したいと思います。
海では本当にいろいろなトラブルが起きます。同じトラブルを起こしても、船長の
手腕次第で楽しいものにも辛いものにもなります。皆さんもできるだけトラブルを起
こさず、そしてもし起きてしまっても上手に付き合って、楽しいボートライフをお送
りください。
それでは次号またお会いしましょう。